ポキッ――夜中、テントの周囲で枯れ枝を踏む音がする。その音は、テントの周囲を遠巻きにするように徐々に移動していく。
明らかに動物がいる。何だろう、人間だろうか? 枯れ枝を踏んで音をさせてはいるが、それ以外の点ではほぼ無音。体が草木に触れてザワつく音はまったくない。気配の消し方は並みではない。暴漢や痴漢、近くの不良どもといった素人とはとても思えない。人間だとしたら、よほど山歩きに慣れた人間で、かなり神経を使って音をさせないようにしているとしか思えない。
なら動物だろうか? 野生の動物はめったに音を立てないというが、彼らでもまったく音をたてないで移動することは不可能だ。シカ? クマ? 大きさとしてはそれほど大きくはないように感じる。夜の屋外では音はよく響くので、もしかしたら案外小さな動物かもしれない。
正体はわからないものの、だからこそ危険を感じた。最悪なのは人間だ。暴漢、変質者、地元の不良、どれをとっても最悪だが、音を立てない術を身につけた人間というのが一番不気味だ。横を見ると、オーナー殿は相変わらずのんきに眠りこけている。僕は静かに身を起こし、近くにあった草刈りカマを手にして身構える。
ポキッという音は、テントを中心として円を描くように回っていく。そろそろ音がしそうな頃を見計らって、静かにテントから頭を突き出して耳を澄まし、身構える。ちらと横をみると、うちの愛犬はち公はそこに寝ている。やつじゃない。
しかし、待ってもいっこうに次の音はしない。向こうもこちらの気配を察したようだ。しばらく待った後、テントの中にもぐり込み、寝ることにした。こちらの気配を感じ、警戒した以上、こちらに近づいたり襲ったりすることはないだろう。
眠りに入るぼんやりとした意識の中で、例のポキッという音がだんだん遠ざかっていくのを聞くとはなしに聞いていた。
翌朝、音がしたあたりを歩いてみたが、足跡らしきものは発見できなかった。距離感が間違っていたのかもしれないし、所詮それほどのトレース能力は僕にはない。あれが去っていった方向に進んでみたが、草が生い茂った半湿地帯が続いていて、僕ですらそれ以上は進めなかった。とても悪ガキなどの人間や近所の飼い犬などが渡ってくるところではない。ましてや夜ともなれば。
あれはいったいなんだったのだろう。よほど確固たる目的と能力をもった人間か、野生動物のどちらかだ。十中八、九動物だとは思うのだが、僕はどうも人間のような気がしてならないのだ。
ホラー映画ではよくキャンプ場の若者が襲われるが、キャンプには開放感がある反面、そんな無防備感もある。野生動物もそうだが、それよりもそこらの人間の方がよほど危険なご時勢だ。キャンプにしろ別荘ライフにしろ、今後も注意だけは怠らないようにしなければならない。
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他の野生動物とは異なり、人は本能的に闇を怖れる。それはそこになにが存在しているか知れないから。未知に潜む危険を怖れているのだろう。街から自然の中にくると、そういった感覚がいっそう呼び覚まされるようだ。

