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初代編集長 平野克巳の「猫の耳に大仏」湘南鎌倉便り


モデルカーズの生みの親、平野克巳氏による目からウロコの模型小噺。さぁどんな話が飛び出しますか。乞うご期待。

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2006年04月18日

永年蓄積された癖が治らない




 友人の新居に初めて伺った。新居と云っても転居して既に1年以上が経っているから、今さら新居祝い(そんな風習はあるのか?)でも転居祝いでもない。彼が東京住まいをしていた頃は比較的頻繁に会ってはぼやいたりしていたものなのだが、隣街の隣人さんとなった途端に、なかなか会う機会もなく、お宅に伺う事など一度も無かった訳で、妙なものだと思ったりもする。通された部屋はパソコンの置かれたデスクだけで実にこざっぱりとしていた。嗚呼、壁が見える、壁が…私はこの20年がとこ、こんな暮らしに憧れている。何も無い生活空間。触れば何かが崩れてしまうCDロムや葉書や封筒や辞書や筆箱やその他諸々がうずたかく積まれたパソコンデスク、プリンタと云いスキャナと云いPC周辺器機の上にまでみっちり積まれた段ボール箱やプラモの箱、机の足元と云い壁際と云い本棚の前と云い何重にも並べ積み重ねられた書籍や雑誌の数々、あらゆる隙き間と云う隙き間に詰め込まれた資料やファイルの束、壁中を覆うポスターや写真や原画の数々、模型に占領された納戸から溢れ出し壁に吊るされたジャケットやダウン、もう何が入っているのかも忘れかかっているパーツや材料を入れたタッパーや小箱の山、箪笥から溢れてそのまま積み上げられた衣類の数々、妙にデカい猫トイレ、そして633爆撃隊のように波状攻撃を加え続ける猫型戦闘機の群れ、三式戦風がくわえて来ては置き去りにしていく娘のパンツ、そんなモノたちに占拠された我が家の生活空間は息詰まるほどの緊張感と狭苦しさに充ちている。気付けば常に首を傾げたり縮めたり猫背になっていたりの不自然な日常が続いている訳だ。いつかそんな生活から脱却したい、そう思い続けてはや幾とせ…思えば現在の住まいに越して来た時には、今度こそゆったりとして広々とした暮らしをするのだと希望に充ち充ちていた…筈であった…。だが今では応接間は幻となって霧散し、納戸は入ったら二度と生還の叶わぬ秘境へと姿を変えた。モノの無い暮らし…私の憧れがそこには在った。
 ただ私はマンションと云う箱が嫌いである。息が詰まるような気がするのだ。四方に、せめて三方に窓が無いと私は窒息死してしまう生き物なのだ。そして何よりも地べたに足を着けて生活がしたい。何とかは高い所が好きの喩えのとおり、私は高い場所が大好きである。東京タワーなど「まい・ふぇいばりっと・ぷれいす」である(六本木ヒルズなどには縁がない…) 今でも喜び勇んで昇ってしまう。だが少年時代の5階建て公団住まいがトラウマとなっていて、終の住処は絶対に庭のある戸建てと心に固く決めている。現在住んでいる地は「鎌倉のチベット」と呼ばれている場所であるが、銭洗弁天の直ぐ裏手と云う案外と観光スポットだったりする訳で、「良いところにお住いねえ」などとは言って戴くのだが、クルマかバイクが無いとどこへも出られない。それでも静かだけが取り柄で、年齢と共に集中力を失いつつある自分にとっては仕事のしやすい環境ではある。それに何よりも地べたがある。モグラが穴だらけにしようがトカゲが這い回っていようがサワガニが横切ろうが「まい・がーでん」なのである。今年は遂に念願であった吉野桜の苗木も植えた。部屋の窓から桜吹雪を眺める事がたっての望みであったのだ。死ねねえ…桜の木が成長するまでは。
 さて、そんな私とは違って、逗子駅からほど近くに住まう友人はあらゆる面で住環境において恵まれている訳で、日常生活を営むについてクルマもバイクも戦車も必要としない。そこで自転車である。高校時代、カンパニョーロのブレーキで強化したブリヂストン・オーバル10で4kmの通学路を6分で走破していたと云う猛者であるから、それもまたむべなるかなである。地方ほど自動車に依存し都会ほど公共機関で事足りる。う~む、逗子は都会だが鎌倉は田舎なのかあ…。ペントハウスの編集者を経てCGで執筆もしていた彼が最終的に辿り着いたのは自転車であった。またクルマもあらゆる使用環境を鑑み、そして自分が気持良い許容範囲にあるのはゼロ・クラウンであるとの結論に達したそうだ。ある意味達観している。それが内外のあらゆる市販車を経験し、ニュルブルクリンクまで走った男の行き着いた結論である。奥が深い…。まあ、その結果、クラウンなら是が非でも欲しいと云う方向には結び着かぬのだろう。だから彼は現在、クルマの所有をやめている。TVRタスカン壊れんだろーなー。コルベットのC5ぢゃイマイチだよなー、などと今だジタバタしている私とは大違いである。だがコルベットやコブラで平気でイトーヨーカ堂に買い物に行ってしまったりする私は使用環境とは無縁なところでクルマと生きている。私には使用目的による価値基準も判断基準もない。好きなクルマに自らの生活を無理矢理でも合わせる事が苦ではない。結局はコーリン・チャプマンに毒された独善的自動車嗜好症候群が慢性化していて治らない。要するに餓鬼なのである。かくも達観していない私は、身辺整理が潔いと云うか、すっきりとした彼の住スペースがこの上もなく羨ましく思える訳だ。そんな風に生きたいなあ…駄目だろうなあ…。今はただ、我が家がゴミ屋敷になってしまわぬ事を祈るばかりだ。こらーっっ!ネコーっっ! 積んだ段ボール蹴散らして走るなーっっ!!

投稿者 平野克巳 : 2006年04月18日 18:05

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