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初代編集長 平野克巳の「猫の耳に大仏」湘南鎌倉便り


モデルカーズの生みの親、平野克巳氏による目からウロコの模型小噺。さぁどんな話が飛び出しますか。乞うご期待。

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2006年07月18日

祭りだわっしょい




 町のあちらこちらで紙垂(しで)のさがった注連縄を目にするようになった。「この辺も祭りだなや…」とある港町で鮪の赤身を頬張りながら、かっぱらけ大王がそう呟く。その昔は今時分になると全国津々浦々、村の鎮守のお祭りでにぎわったものである。僅かな小遣い銭を握り締めては、茜色から藍色へと暮れ泥む鎮守の森を目指して走った。やがて大人となってからも、子供が町内の御輿や山車に参加したりして地域の祭りには何かしら関係した。だが、子供たちも巣立って今はもうそれもない。夏の夕闇に遠く流れ渡るお囃子の音に耳を澄ますばかりだ。新聞紙の切れ端に載せられた焼そばのソースの匂い、高くて買えなかった地球ゴマ、茶封筒の中でがさごそ音を立てている真っ白な南京ネズミ、懐かしい夏祭りと縁日の想い出が甦る。今のかっぱらけ大王には町内の寄付を募られるのみで、祭りとは何も接点のない寂しさばかりが身に染みた。
 平塚の七夕祭りも壮大な縁日が出ることで有名だ。一家で運営する素朴なお化け屋敷や決して噛み切れない牛串焼き、そして何年前からそのままなのだろうかと思わせる、色の褪せた箱のプラモデルやエアガンが商品の当てくじ、そうした怪しげな世界を覗いて回るだけでも楽しい。だがこの数年、平塚の七夕祭りにも行かなくなった。夕闇迫る山あいでヒグラシの声を聞きながら、寂しいことよ、などと独りしんみりしていると、懐かしい友からメールが届いた。小学校の同級生、しかも高層住宅(高層とは言っても昔のこととて5階建てだ)の5Fと4Fに住むご近所同士だったチ嬢(嬢とは言え私とは同年齢である…)からであった。明日から稲毛の浅間神社のお祭り、と近況報告の替わりに、懐かしい歳時報告が…するとたちまちあの頃へと戻り、二人で浅間神社の祭礼に(実際にはそんな事実はなかった…) ポニーテールに浴衣姿のチ嬢も私も中学1年くらいなのか。クラスの誰かに見られたらヤバいよ~などと一寸ドキドキ。「あの頃、ひらのくんとわたし、噂になってたんだよ。知らなかった?」…え? 知らなかったなあ…チ嬢はワタアメとラムネでもう縁日を堪能してしまい、境内の隅っこで線香花火を始める…紅い花火に照らされてチ嬢の頬も仄かに染まる。「ほんとはね、恥ずかしくて顔が赤らんでたんだ」 互いに盗み見る横顔は、大人になっても変わらぬままの優しさに充ちていた。一陣の風は夏の夜の悪戯、はだけた浴衣の裾からちらと見える白い内腿に心がざわめく…あ、すっかり妄想に取り付かれておりますた。真夏の夜の夢、遠い日の郷愁でありますた。互いに少年と少女だったのももはや遠い昔の話、恐ろしいことに40年も昔のことである。ふとそんな夏祭りの情景を空想してみる「おやぢな」私ではあった。
 ところで我々人間一族には神聖な注連縄も、妖怪一族たるかっぱらけ大王にとっては結界であるらしい。白い紙垂が見える度「よぶくぼ~っっ」と悶絶、七転八倒し、ここから先は越すに越されぬ♪やだねったらやだね、の連続である。夏祭りの季節は妖怪一族には辛く鬱陶しいことである。「おんばさら~おんけんそわか~」 今日も今日とてかっぱらけ大王は自宅裏の甲羅沼で、じっと夏祭りの季節をやり過ごしている。ちなみに地元では昔からこの沼は「おいてけ沼」の別名で有名だ。プラモデルを抱えてこの沼の縁を通ると、沼の中から「おいてけ~おいてけ~」と無気味な声が聞こえ、恐くなってプラモデルを置いていくと、数週間後に完成品となって自宅に届けられるのだそうだ。あくまでも地元の古い言い伝えであるから信憑性のほどとなると甚だ怪しいが、私もダメモトで一度試してみようかと思っている今日この頃…。更にちなみに、かっぱらけ大王自宅裏手の甲羅沼には未だ昭和20年春に墜落した二式大艇の残骸がそのまま放置プレー状態の花と蛇。そして彼が今でも薪を割るのに使っているのは、その二式大艇から引き揚げられた軍刀なのだそうだ。凄い、凄過ぎるぞ、河童天国っ!
 おやぢたちの夏祭り。それはもう遠い日の甘美な追憶でしかないのか。ついこだわる余り、30幾歳まで毎年、ゴジラのハッカパイプを買った。中学時代に浴びるほど飲んだにも関わらず、やはりつい飲みたくなってしまうラムネ。浴衣の胸元から微かに零れる汗と石鹸の匂い。白い指先であてどなく揺れる赤い水風船。全ては屋台の灯りに誘われて一夜限りのアバンチュール。なんてことは若い頃からまるでなく、夏祭りとは喰うもの喰って、買うもの買って、門限も気にせず夜の人ごみの中で遊ぶだけ遊んで…ただそれだけである。そんな想い出ばかりを引き摺って、かっぱらけ大王もワタシねこちゃん大玉も、今日も今日とて祭り囃子をBGMに「うーむ、夜になると更にピンバイスの穴なんて見えねーよなーっ。この眼鏡ももう度が合わねーしよ~」などと独り呟いている。あ~、だから横からぺしぺししないでくんねーか~海ちゃんっっ!! 
 

投稿者 平野克巳 : 2006年07月18日 16:19

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