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2006年07月28日
湘南の夏、日本の夏、おかわり
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雨上がりの陽射しの中にようやく夏の匂いが感じ取れるようになった。この歳になっても未だ私は夏の来るのが待ち遠しい。山の稜線や水平線に沸き立つ積乱雲を見るだけで心が逸る。もはや別にしなくてはならないことがある訳でもないのに。だが待ちわびていた夏の訪れを告げるものたちとの出逢いはことの外嬉しい。ヒグラシに続いてアブラゼミが鳴き出したのを聞いて真夏の到来を実感する。目の前をオニヤンマが飛び抜けて、トウモロコシ畑の向こうに入道雲の沸き立つ光景を空想してしまう。金と黒の縞模様、そしてメタリックブルーの尻尾が美しいニホントカゲの幼体を庭先で今年初めて見た。昔ならふん捕まえて尻尾を切って遊んでしまうところだが、今ではもうそんなことはしない。「お前、きれいやねえ…」などと呟きながら、そっと静かに見送ってやる。子供の頃は「かまんちょろ」と呼んでいたことを思い出す。恐らく千葉県地方の方言だと思うが、他府県で何と呼ばれていたのかは知らない。
葉山まで用向きがあった帰り道、夏の匂いに誘われて海岸通りへと足が向かった。夏休みが始まったとはいえ未だ平日は人もクルマも疎らで心地良い。鎌倉、逗子、葉山はこんなまったり感が良く似合う。ただ昨今、葉山森戸の近辺も微妙に街の景観が近代化しつつある。あの昭和40年代のような街並みが何とも魅力的であったのだが、時代の移ろいと共にそれも確実に失われつつあるようだ。最近ではビーサンとビーチボール、浮き輪のげんべい商店の店先がむしろ違和感を発し始めているきらいさえある。佳き湘南の風景は確実に死滅しつつあるようだ。
そんな湘南の風景を走り抜ける私の普段のアシは古いカブ。元をただせば庭に1年以上も放置されていた倅のもので、屑鉄直前に私が拾い上げてタイヤ、ブレーキ、オイルを新品に交換し、キャブをこじったら、それ以来、屑鉄からバイクに昇格し、トラブルフリーで走っている。以前事故ったことがあるらしく、フロント回りが交換されてグリーンメタリックなのだが、車体はグレーメタリックと云う前後にツートーンなお洒落(?)なカブである。バイク屋で車体番号から調べて貰ったところ'87年式らしいのだが、色々混然となっているので詳細は不明だ。ただ3速なので直ぐに頭打ちになってしまうエンジン特性からして絶望的に遅く、最近のかっとび原チャリスクーターの敵ではない。残念ながら…。その3速のカブでブイイ~ンと気持良く逗子の134号線添いを走る。夏に走れるのは嬉しい。大抵は渋滞で走るよりすり抜けることしか出来なくなるのだ。この季節ともなれば。
渚橋から浪子不動尊辺りまでの逗子海水浴場の浜には「鄙びた日本の夏」の風景を今も見ることが出来る。海の家はさすがに一寸ばかり小洒落てしまったが、丸太、ベニア板、波トタンが今も健在である。決して上手くはないペンキの刷毛塗りでラーメンだの焼そばの文字が書き殴られている。全く雑誌グラビアなどとは世界も次元も違うビキニ姿が闊歩し、風に乗って陽焼け止めオイルと焼きイカの混ざった匂いが流れ来る。嗚呼、夏やねえ。湘南の夏やねえ。もう自分には縁遠くなってしまった夏の海の風景。ずっとずっと遥かな昔、ラジカセを抱えて(ラッパーか!)、身長170cmで超ビキニの彼女と過ごした長者が崎、浮き輪で繋がった我が子たちアヒル艦隊を率いて遊んだ由比が浜、脳裏に懐かしい光景が浮かぶ。そんな夏はもう二度とはやって来ないけれど、それでも湘南の夏が今も大好きだ。あの嬌声溢れる楽しげな海岸の風景の中に自分もこそっと混ざりたいな、などと密かに思ったりもするが、もはや「無い物ねだり」をするような歳ではなし。今一度、サンオイルと焼きイカの匂いを胸一杯に吸い込んでグッとスロットルを開く(って既にフルスロットルぢゃん…)
海岸を抜け、江ノ電の踏切を渡り、長谷寺、大仏を横目に走り抜け、山に向かって分け入れば自宅である。海岸ぺりとは別世界のような谷戸の情景が拡がっている。夕暮れともなればヒグラシの合唱が山あいに木霊して、独りきりで居ることの切なさ、寂しさも募る。嗚呼、人生における魔の時。ふとこんな時には心の隙き間に何かがうっそりと忍び込んで来るのだ。にゃおにゃおにゃお…ああ、分かったよ。このペットボトルのキャップが欲しいんだね。飲み干したら今やるから…忍び込んで来たのは黒猫の海ちゃんだった…風ちゃんは? ああ、暑くて腹出し、大の字で寝てるのね…じゃジェムは? 定位置のテレビの上だね。じゃキャルは? あ、相変わらず窓辺からアンニュイな眼差しでこっち見てるのね。海で戯れることもない暑い海辺の夏は、猫と共にぐったりと午睡を貪るに限るんだねえ…仕事しろよ…。
投稿者 平野克巳 : 2006年07月28日 19:10
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