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初代編集長 平野克巳の「猫の耳に大仏」湘南鎌倉便り


モデルカーズの生みの親、平野克巳氏による目からウロコの模型小噺。さぁどんな話が飛び出しますか。乞うご期待。

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2006年09月05日

夏の終わりに自転車おぢさんが行く


自転車散歩道の中で私の好きな風景。子供の頃持っていた「絵の書き方図鑑」にあった夏の風景に似ている。尤もその絵には入道雲が描かれていたが。ここだってほんの数日前までは積乱雲いっぱいだった筈である。やはり数日前までは蜻蛉が乱舞していたのに急にひっそりしてしまった。人造物として目立っているのは幼稚園の庭に立つ遊具。天辺に巨大リスが座っている…。


 今年の夏は駆け足で過ぎていったような気がする。9月に入った途端、一晩で夏から秋へと季節が変わった。突然、陽射しも風も和らいで、蝉の声が小さく遠くなり、替わって秋の虫がいきなり鳴き出した。こんなにもドラマチックに四季の変節を感じられるのは珍しい。自転車で切る風の音ばかりが身体を包み、街は妙に静まり返っている。一寸前まで子供たちの歓声が響いていたプールには誰の姿も見られない。元気に走り回っていた子供たちは学校へ行って、街の中から姿を消した。通り過ぎる家の物干にビニールプールが干してある。楽しい想い出を沢山吸い込んだ水滴が、蒸発して秋の空へと昇って行く。自分の家でもそんな事が幾度もあった事をふと思い出す。もう20年近くも昔の記憶になってしまったけれど。またひとつの夏が終わる。夏の終わりには何時も寂しさがこみ上げるのは何故だろう。何かを置き忘れて来てしまったような哀しさにうちひしがれるのは何故だろう。
 今はもう操業を停止してしまった工場跡地の金網に添って走る。人の姿も喧噪も絶えた建物には空虚な感情が澱んでいる。開け放たれて忘れ去られたままの窓、もぬけの殻となったがらんどうの建物、それは働き疲れて汗と埃にまみれて見えた。雑草が生い茂るひび割れた敷地には鳩や雀が虫を追って飛び回っている。傍らの川には海鵜と鷺が海からさかのぼってくる海魚を狙ってじっと立ちすくんでいる。その脇を大きな鯉の群れが泳ぎ過ぎて行く。そんな小さな生き物たちばかりを眺めつつ、人やクルマを避けて小道や路地裏ばかりを選んで走る。時に自転車の直前を先導するかのようにシオカラ蜻蛉が飛ぶ。距離にしたら1mもあるまい。走りながらその姿に暫くの間見とれてしまう。まるで船の舳先を泳ぐイルカのようで一寸嬉しい。
 暑い最中なので流石に猫には滅多に行き合わない。農家の立派な門前に寝転んだ犬でさえも、けだるさに顎を上げようともしない晩夏の午後。ウチの猫どもはどうせ今頃、家のあちこちにおっこちて、思いきりぶいいんと伸びているのに違いない。たまには違う生態の猫を見てみたいもんだねえ、などとひとりごちて、更に田園地帯(平たく言えば田舎の風景)をへろへろと進む。仄かに黄色く色付き始めた水田や雑草に覆われた空き地では、つい昨日まで乱舞していた蜻蛉の姿が激減しコオロギが鳴いているのに驚かされる。あ、猫…前方を横切る小さな茶白。クルマを避けて無事横断したと思ったら歩道の上でひとり三越のライオン像状態に。緊張なのか暑さなのか、疲れてここでひと休みなんだねえ。今度は自転車に碾かれたりすんなよ。
 さすがに暑さを避けたくなって模型屋にでも、と思えども、ここいら模型を扱う店は全滅してしまって久しい。鎌倉では老舗の「からこや」は玩具店なれど、伝統的にプラモデルの品揃えは豊富であった。あったが今は支店も畳み、由比が浜銀座の本店のみしか残っていない。プラモデルのほうは未だに在庫の多いほうではあろうけれど、ツインスターブランドとガンダムばかりになってしまった。裏駅銀座にはかつて「京屋」と云う玩具店もあったが、遥か昔に店じまいしてしまった。閉店の際、マルサンのHOスロットレーシング、ホームセットが山積みされて500円で叩き売りされていたのも懐かしい。確か付属のクルマはセドリックとクラウンだったような…シゲタ博士も「何故にあの時買わなかったのか惜しまれます」と今も後悔しきりである。そう云えば以前、私の住んでいた鎌倉市雪の下にある「みのる文具」が先日、閉店したそうだ。これはその地区で生まれ育ち、現在もそこで家庭を築いているシゲタ博士の情報である。当時幼稚園児であった我が家の愚息も、よく「みのる行ってくる~」と通っていた店だ。既にその頃は文房具と画材ばかりで、駄玩具やプラモデルはいくらも置いてはいなかったが、玩具の消しゴムなど握っては帰って来た、当時の彼のテリトリー内では最も楽しいところだったかもしれない。幼少の時分のシゲタ博士(彼にも幼い頃があったのだ…私はシゲタ博士を中学3年の時から知っているが、あの頃から既に現在のシゲタ博士と何も変わっていなかったような…あっ、キャブレターに砂糖を入れるのはやめてくだすわいっ!)はその「みのる」で随分とプラモデルを買った記憶があるらしく、思い出話には必ず出てくる店の名前であった。やはり時の移ろいには何事も勝てない。そうして少年たちの懐かしい場所が消えて行くのは残念ではあるけれど。この近辺で老舗の模型店と云えば逗子の「航研堂」であったがそれも消滅して久しくなる。今では「つばさ模型」がその後を引き継いでいる存在である。巨大な白い犬が入り口に陣取って店内に入れない事で有名な模型店だ。犬好きでないとこの店で品物のところまで到達する事は難しい…らしい。この近辺では唯一の模型専門店であるから、いつまでも頑張って営業して欲しいものである。あ、もう文字数が尽きた。ここいらでワタシが「閉店がらがら!」

投稿者 平野克巳 : 2006年09月05日 17:18

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