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初代編集長 平野克巳の「猫の耳に大仏」湘南鎌倉便り


モデルカーズの生みの親、平野克巳氏による目からウロコの模型小噺。さぁどんな話が飛び出しますか。乞うご期待。

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2007年03月06日

昭和プラモデル物語(32)




 その昔、プラモデルが作りたくてたまらなかったように、オートバイや自動車に乗りたくて、運転したくてたまらなかった。作れればどんなプラモデルでも良かったように、乗れれば、運転出来ればどんなオートバイでもどんな自動車でも構わなかった。しかし自動二輪車免許を取得して37年余り、普通自動車免許を取得して35年余りとなった今、そうした激情にも似た気持ちは既にない。私より遥かに年齢の若い友人たちは「理想や願望にこだわって躓いているよりは、眼前の現実を楽しむほうが賢いのではないか」と言うが、ボクはそうは思わない。もう「取り合えず」とか「今のところ」で納得し我慢する気持はない。それは齢50を過ぎ、何とはなしに先が見えた気がしているからに他ならない。もとずっと若い頃はヤマハXV750をチョッパー風に改造して悦に入っていたものだが、今、仮に乗れるとしたなら自分の中にはハーレー以外の選択肢はない。自動車とて同じである。もはや自分の求めるものに対する思考は揺るぐことがなく、代用品、代替品では決して納得も満足も出来そうにない。これが大金持ちなら雑作もない。しかし、そうでないから苦悶する。かつて某政治家が口走った「貧乏人は麦を喰え」の喩えは口惜しいかな現代にも当てはまりそうだ。白米を追い求めながらも口惜し涙で麦を喰う。この場合、喰わねば死んでしまうので致し方ない。だが自動車なら乗らなくても死ぬことはない。少なくともボクの住まう首都圏近郊の環境においては。だから納得の行かないクルマに乗るくらいなら乗らない。歳のせいか(苦笑)妙なところで頑固である。
 ボクが最初にオーナーとなったクルマはホンダZであった。ライフをベースに水冷化され、NEWが冠についた時のモデルで仕様はGTLであった。ボディカラーは艶消しのゼロブラック、それにOPのストライプを自分で貼った。このストライプは通常白が基本なのだが、天の邪鬼なボクは敢えて赤を選択した。ちょっと見爬虫類のごとき毒々しい色味ではあったが、ボク個人としては大いに気に入っていた。このホンダZはその時点ではボクの理想の選択であり、満足こそすれ全く不満などなかった。それだけに今でもボクはホンダZが好きだ。そんな訳でプラモデルでもずっとホンダZには一家言あると云うかこだわり続けている。近年までホンダZのベストワンはオオタキ1/20と信じて来たが、実は最近その考えを少しばかり修正したところだ。オオタキに較べりゃやっぱり劣るよな~などと思っていたクラウン1/20がことの外に出来が良いのだ。ボディのフォルムはどちらも一長一短で、優劣を決定付ける要因は見当たらない。クラウンは「水中メガネ」と愛称されるリアゲートの形状の悪さで大部損しているが、それ以外ではむしろオオタキより良いくらいだ。ヘッドランプ部分のボディパネル形状などは真ん丸に抜かれているオオタキより実車を正確に再現していたりする。まあ、そうは云っても車室、ホイールやタイヤなどが余りに稚拙なので、総合評価としての高得点は与えられそうにもないが。
 オオタキもクラウンも空冷の最初期モデルで仕様はGSである。当然、ボク個人としては水冷モデルに仕上げることを夢想して来た。しかしホイールベースが延びているので、それは簡単な改造では済まない。その昔だったら必死で挑んだやもしれぬ。そして一気呵成に最後期モデルのハードトップにもチャレンジしたろう。だが、今更それもあるまい、などと達観している。昔のキットはそのまま仕上げるのが平和かつ無難である。元気・天気・呑気で過ごすのが健康の為にも宜しい。第一、絶版と化したレアなキットを色々といじり倒すのはキットに対して失礼ではないのか。勿体ないお化けだって出ちゃいそうだ。今のご時世なら1/43や1/18で立派なダイキャスト完成モデルも期待出来るから、わざわざ古いプラモデルで悪戦苦闘することもあるまい。と、建て前ではクールなことを言ってみたりもするのだが、根っからのプラモ小僧の本音はやはり別なところにあったりする。プラモデルを原型を留めないまでに改造する、それがボクたちの世代では格別なJOBである。そうした手合いは崇拝と不審を一身に集め…一寸ばかり露骨な皮肉が過ぎたようだ。もう止めにしておこう。
 本来であればオオタキ1/20ホンダZを作りたいと願っていた。しかし、現存数が少ないからか入手は決して容易くはない。それに較べてクラウン1/20ホンダZなら何とでもなる。だからと云ってクラウンのキットではお茶を濁すような感覚でその気になれない。だからボクの中でのホンダZは封印され続けて来た。だが改めて精査してみて自分の認識が間違っていたことに気付いた。永年のフラストレーションが一気に晴れた気分である。納得し満足したことによってクラウン1/20ホンダZは、ボクの選択肢に直球ストレートを放り込んで来た。昔のキットとて色褪せるばかりではないのだ。(続く)

投稿者 平野克巳 : 2007年03月06日 21:25

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