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2007年07月03日
昭和プラモデル物語(49)
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その昔、未だ食料事情の良くなかった時代には、鯨肉、いわゆるクジラの肉は貴重な食料源だった。恐らく団塊の世代であるならば「嗚呼、絶望的に不味かったなあ…」との感慨と共に、学校給食に供された鯨ベーコンを脱脂粉乳の次くらいに懐かしく思い出されることだろう。しかし世界的な捕鯨排斥運動の高まりによって我が国でも1988年以降は商業捕鯨より撤退、今では調査捕鯨で許された僅かな鯨肉が出回るのみで、稀少かつ貴重な食材となってしまった。ボクも安くて上手い鯨の生姜焼きは大好きだったが、やがて牛や豚より安価な食肉材の時代が終わり、鯨の看板を誇らしげに掲げた専門店などに通う鯨のちょいマニアな大人となったが、それも今は叶わぬ夢である。
もともと我が国の捕鯨の歴史は古く、本格的商業捕鯨は明治後期より始まっている。そもそも鯨肉の食文化を持たず、灯火燃料や機械油としての役目も終わった欧米各国にとって、鯨はイルカと等しく保護すべき野生動物であって人間社会の為に役立てる資源ではないらしい。自国の捕鯨船の為に米国のペリー提督が開国を迫った歴史を思えば、西欧列強とは何と身勝手で理不尽な人種であることか、などと密かに腹を立ててはみるものの、世界の趨勢には勝てず、知能が高等なほ乳類を喰う日本人とは何たる野蛮人なのか、くらいにしか見られていないようだ。食肉用の家畜はそれに含まず、の論理も何だか釈然としなければ、被害を大きくしない為に原子爆弾を使用したのだという自己正当化理論も間尺に合…あ、言い出したら抑制がきかなくなってしまう…。
さて、既に歴史の中に埋没してしまった商業捕鯨だが、かつて我が国はノルウェーと共に一大捕鯨国であった。捕鯨船、いわゆるキャッチャーボート数隻、そして母船、冷凍冷蔵運搬船、油槽船で船団を組み、遠く南氷洋で捕鯨が行なわれていた。この南氷洋捕鯨を戦前より行なっているのがマルハの商標でお馴染みの大洋漁業(現マルハ)である。かつては「丸にはの字」のマークは誰もが知っていた親しみのあるもので、鯨缶や魚肉ソーセージは庶民にとっては欠かせぬ食材でもあった。またプロ野球球団大洋ホエールズ(現横浜ベイスターズ)のオーナーとしても広く知られ、フランチャイズ球場川崎では捩り鉢巻きの漁業関係者のファンが熱い声援をおくっていた。それだけにボクたちが子供の時代には「マルハ」の大洋漁業は今よりずっとメジャーでポピュラーな存在であったのだ。それだけ「マルハ」のマークは生活に密着しており、故に親しみを込めてマルハのマークの捕鯨船(キャッチャーボート)がプラモデルにもなったのであろう。ただ、確かにキャッチャーボートは現在よりは遥かに知られた艦種ではあったが、やはり戦艦や客船に較べればマイノリティーな存在であったことには違わない。それをプラモデル化したのが「とみやま(とみやま商事/現トミー)」であることに納得させられてしまう向きは、恐らくは団塊の世代層であろう。とみやまのプラモデルは他社とはジャンルを一寸ばかり異にしていたからである。
とみやまがモデル化したのは1/150大洋漁業所属の捕鯨船(キャッチャーボート)第六文丸(だいろくふみまる)で、全長55m、総トン数400トンの当時のキャッチャーボートとしては標準的なクラスの船であろう。キャッチャーボートは大きな船でも700トン程度である。特徴的な形態をした船体は一体成型で、TKKマブチ25モーターと単2電池2本で水上走行する。船体はグレー、他にウッド、オレンジ、ホワイトの多色モールドなのが時代を物語っている。また船体に描かれた船体番号の6と、煙突に描かれた「丸にはの字」のマークが、白モールドで別パーツになっている辺りに、当時の捕鯨大国日本のプライドが垣間見える、などと書くのは余りに穿った物の見方だろうか。キット自体の出来映えはお世辞にも精密再現の、などとは言えないものの、余り良くは知られていないキャッチャーボートの特殊な構造を学ぶことができる。現代なら博物館モデルとしてしかあり得ないモデルだろうが、'60年代当時としても他には見られない珍しいプラモデルであった。なにしろ大雑把に言ってしまえば「漁船」のプラモデルである。戦艦大和でなくて捕鯨船という辺りが「とみやまがとみやまたる所以」なのである。
時代の推移の中で名門とか老舗とか呼ばれる企業や事象が消えて行く。既にバブル崩壊で日本の金融業界は大きく様変わりしてしまったが、最近になって鐘紡という120年の歴史を誇る老舗もその名を消してしまった。マルハは健在であるけれども捕鯨という文化が消え、それに伴ってキャッチャーボートも過去の遺物へと姿を変えようとしている。第六文丸のプラモデルにはそんな時代の残り香だけが微かに漂って、侘びしくもあり哀しくもある。(続く)
投稿者 平野克巳 : 2007年07月03日 13:02
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