イギリスにすごい親父がいた。ここで紹介されているクルマと、それを作った親父は本当にすごい。北アイルランドで計測器工場を経営する叩き上げの精密機械エンジニア、デビッド・ウッズは、元バイクのレーサーだった友人とともに理想のクルマを設計する。1950年代の半ばだ。デビッドはクルマのほぼすべてを設計した。エンジン、フレーム、サスペンション、ブレーキ、そしてボディまで。エンジンはドライサンプの1413cc空冷直列6気筒で前輪を駆動し、最高出力は136馬力。車両に載せる前に20,000キロ相当をテストベンチ上で回したと書かれているから、耐久性も問題ない。それよりも驚くべきはその馬力だ。リッター当たり97馬力。時代は1960年代初頭である。50年代グランプリマシンでもそこまでは到達していない。しかもこれは耐久性を考慮して、おとなしめのカムを組んでいながらの数値なのだ。ピストンこそマーレの鍛造を用いたが(最初は自製したが、思ったほど軽量化できず断念したとのこと)、三分割のクランクシャフト、コンロッドはデビッドが削り出し、他の部品も彼の工場内でほとんど作り上げられている。


シャシはチューブラーフレームで、ボディはラバーブッシュを介してその上に載っている。サスペンションは4輪ダブル・ウィッシュボーン、ブレーキは4輪ともディスクで、キャリパーもディスクもデビッドが自分で作った。ちなみに、当時4輪ディスクブレーキを備えるロードカーは存在していない。ボディデザインおよび製作に関しては、当初イタリアの名だたるカロッツェリア数社に打診した。だが、いずれもまともに取り合ってくれないか、あるいは高額な代金を要求された。結局デビッドは古い知り合いだった無名の板金職人ビリーに製作を依頼することになる。ビリーはデビッドが描いたスケッチだけを頼りに、図面もなしにボディを作り上げた。構想から完成まで13年の歳月を要したこのクルマは、デビッドと友人のイニシャルをとってDAWB6と名づけられた。テストドライバーをつとめた友人いわく、エンジンサウンドは素晴らしく、信じられないほどスムーズで振動はほとんどない。ロードホールディングも素晴らしく、オンザレールでコーナーを抜ける、とのことだった。理想を追求し続け、既成の部品をほとんど使用しなかったこともあり、完成したのは1960年台の後半にさしかかっていたが、このクルマの基本設計は1950年代である。このあと登場してくる量産車でようやく実用化されたメカニズムやアイデアの数々が、このDAWB6ですでに形になっているのだ。それを考えると、デビッドがエンジニアとして、そしてクラフトマンとしていかに突出した才能を持っていたかがわかる。いや、才能というなら、自らが目指した理想のために一切の妥協を排し、それを貫き通す執念の持ち主であったことも常人のレベルをはるかに超えていたといえるだろう。



