試乗レポート「BMW R1200GSアドベンチャー」
いよいよ4月22日から、BMWのニューモデル、「R1200GSアドベンチャー」が発売となる。
BMWジャパンの発表によると、現行R1200GSとR1200GSアドベンチャーの主要な相違点は、容量33リットルの燃料タンク、20ミリ延長された前後サスペンション、大型ウィンドシールド、ステンレス製ラゲッジ・ラック、高さ調節式シート、720ワットの高性能オルタネーター等多岐に渡る。果たして、これらのスペシャルな装備を得てどのようなキャラクターのバイクが完成したのだろうか。今回のホビダス二輪特集では、この注目のニューモデルを試乗レポートする。
このR1200GSアドベンチャーの試乗を終えて、そう思わざるを得ない。これまでのBMWは、広範なオーナーのニーズを大抵は1台でカバーしてしまう、恐ろしく懐の深いバイクを作り続けてきた。そして、特定の性能を強調したモデルであっても、必ずツーリングにおける性能に軸足を置き、それを決して外すことは無かった。例えば、1988年にBMW流スーパースポーツとしてリリースされた革新的モデル「K1」でさえも、そのハンドリングやポジション、ウインドプロテクション性能、パニア代わりの布製ツーリングバッグの存在など、ツーリング・ユースに配慮したもので、当時最盛期だった日本製「レーサー・レプリカ」とは一線を画していた。そして、その考えは現行Kシリーズまで連綿と受け継がれている。
しかし、最近のBMWは、そういうモデルを核としつつも、ある特定の性能を重視するユーザーに向けてスペシャルなモデルをリリースするという変化を見せている。そしてそれらのモデルで必要とあれば、これまで重視してきた項目をあっさりと切り捨てることすら辞さない。その代表例が先にリリースされたエンデューロモデル「HP2」であり、今回のR1200GSアドベンチャーであると思われる。何故なら、その割り切り様は1150にも存在した「アドベンチャー」よりもさらに潔いからだ。
HP2はオフロード性能に的を絞ったモデルであることを疑う余地はない。ABSやテレレバー、ラゲッジに対する配慮など、これまでBMWが重視してきた項目を潔く捨て去り、その代わりにオフロードでの性能を極限まで追求し、成功している。そして、R1200GSアドベンチャーにも、その傾向が見て取れる。誤解を恐れずに言うなら、R1200GSアドベンチャーは、R1150GSからR1200GSへのモデルチェンジで得た重量的アドバンテージ、つまり30キログラムとも言われている軽量化分とBMWの伝統的な優位性の一部を、ある特定の性能を獲得するための代償として支払ったモデルとすることが出来る。それは、これまで想定もし得なかったような過酷なロングツーリングを完遂するための性能であり、BMWのその目論見は高次元で達成されているのである。
見る者を圧倒するほどに拡大された燃料タンクは33リットルの容量を誇り、700キロに及ぶ航続距離を現実のものとした。走り方によっては給油回数を半減させることも可能で、同じ時間ならその到達距離も大幅に伸びることだろう。また、3ピース構成という凝った構造のウインド・スクリーンは、高速走行時にライダーの上半身を中心として、卵型の平和な空間を作り出すことに成功している。やや賑やかな風切り音を除けば、そのウインド・プロテクション性能はR1200RTに匹敵するか、場合によっては超えるレベルにあるとしても良い。さらに、720ワットという巨大なオルタネーターもロング・ツーリングでは増えるであろう消費電力の大きな装備品を稼動させるためものである。
肝心のエンジンに関しても、ロング・ツーリングのためのエンジンとしては文句のつけようもないレベルにある。エンジン・マネジメントもかなり進化したようで、現代のボクサーエンジンは始動直後においても簡単にエンストするようなことはない。走行を開始してからのレスポンスも右手に忠実で扱いやすいことこの上なく、チューニングが進み、もはやその存在を忘れるほど自然なタッチとなったインテグラルABSブレーキを駆使すれば、巨体に似合わず街中のすり抜けでさえ不得意ではない。それでいて、人畜無害のつまらないエンジンかと言えばそうではない。ワイドオープンすれば、それ以上の必要性をまったく感じないほどの力強さと、荒々しい吸気音でライダーを楽しませてくれる。
高速・一般道にかかわらず、オンロードを走行中のR1200GSアドベンチャーは快適そのものだ。大柄な車体と20ミリ延長されたサスペンションにより、多くの乗用車を上から見下ろすようなポジションと船のような乗り心地。これもまた、700キロを一気に走りぬくための性能として、このマシンには欠かせない要素といえるだろう。結果的に、R1200GSアドベンチャーは長距離をこなすという意味においては極めて高性能なバイクに仕上がっている。ロングツーリングが得意なBMWのラインナップ中にあっても最強と言っても良い。いつ給油できるか分からないような場所を走り、旅のコースに5%でもラフ・ロードが含まれるなら、もはや他に選択肢がないとも言える。R1200GSアドベンチャーとはそういうバイクだ。
一方、R1200GSアドベンチャーがその類稀なる長距離走破性能の代償として失ったものもの、それは、伝統的にBMWの美点とされてきた低重心設計の優位性と、それがもたらす軽快なハンドリングだ。
1993年に登場した259ユニット以降、オルタネーターの大型化やエンジン搭載位置の見直しなどに伴い、単純に「ボクサー=低重心」という構図は崩れつつあったように思われるが、R1200GSアドベンチャーの場合は、その傾向がこれまでになく顕著だ。センタースタンドを外した瞬間から、R1200GSアドベンチャーは歴代のBMWほど低重心ではないことを明確に主張してくる。33リットルに及ぶガソリンでタンクが満たされている場合はなおさらだ。
エンジンや補器類との兼ね合いから、容量を増やすためには横方向に拡大するしかなかった樹脂製燃料タンクと、それを保護する必要性からさらに横方向に展開するタンクガードはそれなりの重量物であるはずだ。車体全体として軽量化されていたR1200GSの車体にそれが付加されていると考えただけでも、重心が上方かつ前方に移動し、マスが分散したことを想像するに難くない。また、20ミリ延長されたサスペンションにより高くなった車高もその傾向を助長していることだろう。もちろん、水平対向エンジン独特の天秤のような安定性は十二分に発揮されているが、BMWが静止状態でこれほどまでに高い重心位置を許可したことは異例とも言える。
そして、その影響はワインディングとオフロードに持ち込んだときにより明確となる。タンク周辺の重量を思い知らされるからだ。それを意識せず不用意に扱えば、明らかにリーンのタイミングが遅れてしまう。たとえ最初のコーナーをクリアしたとしても、タイトなコースでは次のコーナーに向けての切り返しが遅れ、無理をすれば何個目かのコーナーでつじつまが合わなくなりやすい。また、フロント・ヘビーな傾向からか、ハンドリング自体もアンダーが出やすい。一連のコーナーリング動作中に前後タイヤの荷重コントロールに気を配らないとフロントタイヤが外側に逃げていってしまうからだ。これらの傾向はワインディングとオフロードに共通するもので、ブレーキングとアクセル操作で積極的に荷重コントロールを行えば、思い通りのラインをトレースすることも可能だが、ペースが合わない四輪の存在など一般道ではそれが許されない状況もある。以上のことから、余程腕の立つライダー以外は我慢を強いられるケースも多くなりがちだ。長距離性能を獲得するために支払った代償は小さいとは言えない。
例えばハマーなど、街中を走るには到底適しているとは言えない大型SUVに憧れを抱く人は多い。最強というイメージとデザイン、その秘められたポテンシャルは、実際の用途がどうであれ多くのドライバーに一定の説得力を持つ。
R1200GSアドベンチャーもそういう存在に近い。日本において700キロを航続するための性能と装備は、なかなか使いきれるものではない。その性能を得るために失った性能があるのであれば、購入にあたっては熟慮せざるを得ない。しかし、極めて押し出しの強いデザインと、最強バイクとしてのイメージ、ギミックではない性能の存在に魅せられてしまったのなら、このバイクを拒絶することは容易ではない。
そして、全てを納得した上でこの高価なバイクのオーナーとなれるならば、それは趣味性の高いオートバイライフのあり方として幸福だと言えるだろう。性能的にはR1200GSアドベンチャーがR1200GSより常に優れているわけではない。通常のR1200GSをチョイスした方が幸せな場合も多いはずだ。要はオーナー次第。極めて困難な選択だが、状況が許せば、じっくりと試乗して決断していただきたいモデルである。
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最近のBMWは、明らかに変わった。前方に集中したボリューム感がに目を奪われる。タンクガードが華奢に見えるほどの迫力だ。 |
しかし、最近のBMWは、そういうモデルを核としつつも、ある特定の性能を重視するユーザーに向けてスペシャルなモデルをリリースするという変化を見せている。そしてそれらのモデルで必要とあれば、これまで重視してきた項目をあっさりと切り捨てることすら辞さない。その代表例が先にリリースされたエンデューロモデル「HP2」であり、今回のR1200GSアドベンチャーであると思われる。何故なら、その割り切り様は1150にも存在した「アドベンチャー」よりもさらに潔いからだ。
HP2はオフロード性能に的を絞ったモデルであることを疑う余地はない。ABSやテレレバー、ラゲッジに対する配慮など、これまでBMWが重視してきた項目を潔く捨て去り、その代わりにオフロードでの性能を極限まで追求し、成功している。そして、R1200GSアドベンチャーにも、その傾向が見て取れる。誤解を恐れずに言うなら、R1200GSアドベンチャーは、R1150GSからR1200GSへのモデルチェンジで得た重量的アドバンテージ、つまり30キログラムとも言われている軽量化分とBMWの伝統的な優位性の一部を、ある特定の性能を獲得するための代償として支払ったモデルとすることが出来る。それは、これまで想定もし得なかったような過酷なロングツーリングを完遂するための性能であり、BMWのその目論見は高次元で達成されているのである。
専用装備がもたらす圧倒的な遠距離性能
かなり大型化されたメイン・スクリーンよりも両サイドのサブ・スクリーンの恩恵を強く実感する。 マネジメントが進むボクサーエンジン。始動直後のエンストとも無縁になりつつある。 |
肝心のエンジンに関しても、ロング・ツーリングのためのエンジンとしては文句のつけようもないレベルにある。エンジン・マネジメントもかなり進化したようで、現代のボクサーエンジンは始動直後においても簡単にエンストするようなことはない。走行を開始してからのレスポンスも右手に忠実で扱いやすいことこの上なく、チューニングが進み、もはやその存在を忘れるほど自然なタッチとなったインテグラルABSブレーキを駆使すれば、巨体に似合わず街中のすり抜けでさえ不得意ではない。それでいて、人畜無害のつまらないエンジンかと言えばそうではない。ワイドオープンすれば、それ以上の必要性をまったく感じないほどの力強さと、荒々しい吸気音でライダーを楽しませてくれる。
高速・一般道にかかわらず、オンロードを走行中のR1200GSアドベンチャーは快適そのものだ。大柄な車体と20ミリ延長されたサスペンションにより、多くの乗用車を上から見下ろすようなポジションと船のような乗り心地。これもまた、700キロを一気に走りぬくための性能として、このマシンには欠かせない要素といえるだろう。結果的に、R1200GSアドベンチャーは長距離をこなすという意味においては極めて高性能なバイクに仕上がっている。ロングツーリングが得意なBMWのラインナップ中にあっても最強と言っても良い。いつ給油できるか分からないような場所を走り、旅のコースに5%でもラフ・ロードが含まれるなら、もはや他に選択肢がないとも言える。R1200GSアドベンチャーとはそういうバイクだ。
遠距離性能獲得の代償
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1993年に登場した259ユニット以降、オルタネーターの大型化やエンジン搭載位置の見直しなどに伴い、単純に「ボクサー=低重心」という構図は崩れつつあったように思われるが、R1200GSアドベンチャーの場合は、その傾向がこれまでになく顕著だ。センタースタンドを外した瞬間から、R1200GSアドベンチャーは歴代のBMWほど低重心ではないことを明確に主張してくる。33リットルに及ぶガソリンでタンクが満たされている場合はなおさらだ。
エンジンや補器類との兼ね合いから、容量を増やすためには横方向に拡大するしかなかった樹脂製燃料タンクと、それを保護する必要性からさらに横方向に展開するタンクガードはそれなりの重量物であるはずだ。車体全体として軽量化されていたR1200GSの車体にそれが付加されていると考えただけでも、重心が上方かつ前方に移動し、マスが分散したことを想像するに難くない。また、20ミリ延長されたサスペンションにより高くなった車高もその傾向を助長していることだろう。もちろん、水平対向エンジン独特の天秤のような安定性は十二分に発揮されているが、BMWが静止状態でこれほどまでに高い重心位置を許可したことは異例とも言える。
そして、その影響はワインディングとオフロードに持ち込んだときにより明確となる。タンク周辺の重量を思い知らされるからだ。それを意識せず不用意に扱えば、明らかにリーンのタイミングが遅れてしまう。たとえ最初のコーナーをクリアしたとしても、タイトなコースでは次のコーナーに向けての切り返しが遅れ、無理をすれば何個目かのコーナーでつじつまが合わなくなりやすい。また、フロント・ヘビーな傾向からか、ハンドリング自体もアンダーが出やすい。一連のコーナーリング動作中に前後タイヤの荷重コントロールに気を配らないとフロントタイヤが外側に逃げていってしまうからだ。これらの傾向はワインディングとオフロードに共通するもので、ブレーキングとアクセル操作で積極的に荷重コントロールを行えば、思い通りのラインをトレースすることも可能だが、ペースが合わない四輪の存在など一般道ではそれが許されない状況もある。以上のことから、余程腕の立つライダー以外は我慢を強いられるケースも多くなりがちだ。長距離性能を獲得するために支払った代償は小さいとは言えない。
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R1200GSアドベンチャーもそういう存在に近い。日本において700キロを航続するための性能と装備は、なかなか使いきれるものではない。その性能を得るために失った性能があるのであれば、購入にあたっては熟慮せざるを得ない。しかし、極めて押し出しの強いデザインと、最強バイクとしてのイメージ、ギミックではない性能の存在に魅せられてしまったのなら、このバイクを拒絶することは容易ではない。
そして、全てを納得した上でこの高価なバイクのオーナーとなれるならば、それは趣味性の高いオートバイライフのあり方として幸福だと言えるだろう。性能的にはR1200GSアドベンチャーがR1200GSより常に優れているわけではない。通常のR1200GSをチョイスした方が幸せな場合も多いはずだ。要はオーナー次第。極めて困難な選択だが、状況が許せば、じっくりと試乗して決断していただきたいモデルである。
・スペック
R 1200 GS Adventure
(4月22日発売)
価格:217万3500円(税込)
●記事制作:ホビダス編集部 渡辺
●協力:BMW BIKES編集部
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