試乗レポート「BMW K1200GT」
いよいよ5月27日から、BMWのニューモデル「K1200GT」が日本の道を走り始めた。4輪車の例から類推すれば、「GT」は高性能モデルを期待させる符号ではあるが、それならばBMWのモーターサイクルには「RS」という符号が既に存在する。また、BMWは過去の製品とそのオーナーに対する敬意を込めて、同じモデル名を繰り返すことを嫌うとされてきた。しかし、「K1200GT」はその数少ない例外にあたる。先代Kシリーズにも同名の「K1200GT」が存在したからだ。ならば、あえてこの「GT」という符号に拘ったと考えるのが自然だ。果たして、そこにはどのような意図が込められているのだろうか。
このモデルをざっと俯瞰すれば、スポーツモデル「K1200S」をベースとしたツアラーという佇まいだ。それも、これまでの電動可変ウィンドシールド搭載モデルがそうであったように、シリーズのフラッグシップとなるべき、極めてよく出来たラグジュアリーなツアラーと理解するのが自然な思考だろう。
あまりにジェントルな外観からは「GT」としての特別な主張は感じ取りにくいというのが本音だ。
しかし、外観とは裏腹に、エンジンを始動した瞬間から、このモデルは「GT」としての主張を始める。ベースモデルとなったK1200Sや派生したK1200Rと同様、乾いて、やや咳き込むようなノイズを含む排気音は、国産モデルで言うなら明らかにスーパースポーツのそれだ。K1200Sがベースだから、この排気音は当然といえば当然だが、少なくとも外観はジェントルなツアラー風であるこのモデルが、挑発的な4発の音をそのまま剥き出しにしているところに「GT」としての主張が垣間見える。
走り出せば、このモデルに搭載されたエンジンがタダモノではないことが誰にでも分かるはずだ。平坦地で、さして気を使うこともなく「6速発進」すら許容する低速トルクは並大抵ではなく、ミッションがどのポジションにあろうとも車体重量300キログラムに達する巨体を超高速域に誘うことが可能だ。K1200Sが飼っていた162頭の馬は、このモデルの性格に合わせ、10頭ほど中低速側に借り出されたようだが、それによって得られたトルクは増えた装備重量を補って余りあると言える。他のモーターサイクルとの比較でも、パワーに関して不満が出る可能性は極めて低いだろう。むしろ、外観からもっと穏やかなレスポンスを期待していた向きからの反応が心配なほどだ。
デュオレバーという革新的なフロントサスペンションを核とする高剛性の車体と、シリンダーブロックを55度も前傾させた並列4気筒エンジンのコンビネーションは、無類の低重心と走行安定性を実現している。シリンダーの前傾角に合わせた左右の極太ビームを持つアルミ製のツインスパーフレームも、車体全体の低重心化を強く意識した設計で、これはいかにもBMWらしい部分と言えよう。エンジンを剛性メンバーとするダイヤモンドタイプであるため、低重心だけではなく、国産スーパースポーツに勝るとも劣らないレンガに跨っているような剛性感を楽しむことが出来る。
そこから生み出されるハンドリングについては、それがサスペンションの熟成の結果なのか、超ヘビー級の車重との相性によるものなのかは判別しにくいが、かなり自然なものとなった。ハンドルに感じられる舵角の少なさは相変わらずだが、K1200Rでは感じられた、継ぎ目のない1枚板に跨っているような頑固さは影を潜め、剛性感だけが強調された感じだ。試乗車に装備されていた電子制御式サスペンション"ESA"は、ボタン操作でサスペンションのキャラクターを変えられる便利なものだが、これをソフトな「コンフォート」にセットすれば一層自然なフィーリングが得られることだろう。
ブレーキに関しては、停車すると予測した位置がライダーの感覚と偶にずれてしまう極々限られた瞬間さえ気をつければ、正に絶品だ。320ミリ径のダブルディスクを擁し、右手のレバーでリアブレーキと連動して作用するパーシャリー・タイプのインテグラルABSシステムが強力なのは言うまでもない。しかし、特筆すべきはリアブレーキだ。294ミリという大径のディスクを搭載し、明らかに「使うためのリアブレーキ」であることを主張している。
通常、姿勢制御として操作されることが多いリアだが、このリアブレーキの制動力は単独でも相当なものだ。通常ならハード・ブレーキングを必要とする速度でコーナーに飛び込んでも、大抵の場合は右足のブレーキペダルだけで事足りてしまう。これは、左右手足の完全分業によるライディングをも可能とするものであり、ロングツーリングの疲労を軽減したり、タンデムライダーに優しい操作をする場合においても有効であろう。
その他、おなじみのグリップヒーターに始まり、電動ウィンドシールドやライダーに合わせてアジャストできるステアリングバー、シートヒーターなど、BMWのトップレンジモデルが誇る豪華装備は何れも実用的で好ましいものだ。特に、走行中でも適切な高さに調節出来る電動ウィンドシールドは、その便利さを知ってしまうと、少々オヤジ臭い外観になろうとも、非常に高価なこのモデルの購買動機を十分に補強する材料となり得る。
遠く小さく視野の狭いミラーだけは大いに気になる点だ。パワーとレスポンスから言って、このモデルで日本の公道を走るなら、後方から追尾してくる無粋な車両をチェックすることは必要不可欠な行為だ。振動に対する落ち着きの無さも含めて、このミラーだけは改善を望みたい。
その他、やや少ないと感じられる800ミリ/820ミリというシート高の可変幅や、厚みのある2重構造で、外観ほどは入らないパニアケース、装着が前提とは言え、パニアを外した時の車体側デザインが配慮されていない点など、気になる部分があるにはあるが、ミラー以外は、欠点らしい欠点がないと感じた。ただし、メーターパネルの横に十分な余裕があり、カウル右側にはRTのようなコンパートメントが備わっているにも関わらず、スピーカーの内臓とオーディオのオプション設定がないのは、欠点とは言えないが、他の豪華装備と比較して不自然さを感じた。
これまでのBMWというメーカーは、不利な戦いを避け、有利な土俵でだけ戦ってきた感がある。また、守備範囲を自ら狭めて、そこに戦力を集中してきたように思う。だから、他のメーカーがその牙城を突き崩すことは難しかった。
しかし、近年ではモデル数は増え、エンジンのバリエーションも拡大。また、他のメーカーと同様の極太アルミツインスパーフレームにハイパワーな並列4気筒を搭載したモデルも登場した。まるで、今のBMWは他のメーカーと同じ土俵での勝負を望んでいるかのように見える。既に発表されているミドルクラス、F800S/STにも戦略的なプライスタグがつけられるに違いない。
しかし、それだけでは不十分だ。勝負を有利に進めるには、戦況を一挙に変えてしまうような強力なカードを切る必要がある。
モデル名が完全に重複するにも関わらず、敢えて与えられた「GT」という符号には、そんな強い思いが込められているように思えるのだ。高額なこのモデルが直接マーケットを支配するほどの影響力をもっているとは思えないし、BMWもそれを想定してはいないだろう。しかし、攻めに転じたのBMWの強力なイメージリーダーとしての素質は十分だ。スーパースポーツに勝るとも劣らない動力性能と刺激、ツアラーの快適さと利便性、豪華さ。この全てをこれほどまでに完璧な形で兼ね備えるモーターサイクルはこれまで存在しなかったからだ。また、この意味においては
BMWは、「GTの符号は軽々しく使うものではない」とでも言いたげだ。確かに、4輪の世界における「GT」は、メーカーの威信をかけて開発した高性能スポーツモデルに与えられるのが一般的だ。これまでツーリングモデルに軸足を置いてきたBMWのラインナップには、それに相当するモデルは多くはない。裏を返せば、相当の覚悟を持って開発したと思われるK1200Sには、「GT」のベースマシンとしての資質ありと、BMW自身が認定した数少ないスポーツモデルだということになる。
「名ばかりのGT達は道をあける」
かつて、四輪の世界ではそんなキャッチコピーが存在した。4輪も製造するBMWは、「GT」という符号の重みを意識しているに違いない。
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スタイル
あまりにジェントルな外観からは「GT」としての特別な主張は感じ取りにくいというのが本音だ。
エンジン
走り出せば、このモデルに搭載されたエンジンがタダモノではないことが誰にでも分かるはずだ。平坦地で、さして気を使うこともなく「6速発進」すら許容する低速トルクは並大抵ではなく、ミッションがどのポジションにあろうとも車体重量300キログラムに達する巨体を超高速域に誘うことが可能だ。K1200Sが飼っていた162頭の馬は、このモデルの性格に合わせ、10頭ほど中低速側に借り出されたようだが、それによって得られたトルクは増えた装備重量を補って余りあると言える。他のモーターサイクルとの比較でも、パワーに関して不満が出る可能性は極めて低いだろう。むしろ、外観からもっと穏やかなレスポンスを期待していた向きからの反応が心配なほどだ。
車体
そこから生み出されるハンドリングについては、それがサスペンションの熟成の結果なのか、超ヘビー級の車重との相性によるものなのかは判別しにくいが、かなり自然なものとなった。ハンドルに感じられる舵角の少なさは相変わらずだが、K1200Rでは感じられた、継ぎ目のない1枚板に跨っているような頑固さは影を潜め、剛性感だけが強調された感じだ。試乗車に装備されていた電子制御式サスペンション"ESA"は、ボタン操作でサスペンションのキャラクターを変えられる便利なものだが、これをソフトな「コンフォート」にセットすれば一層自然なフィーリングが得られることだろう。
ブレーキ
通常、姿勢制御として操作されることが多いリアだが、このリアブレーキの制動力は単独でも相当なものだ。通常ならハード・ブレーキングを必要とする速度でコーナーに飛び込んでも、大抵の場合は右足のブレーキペダルだけで事足りてしまう。これは、左右手足の完全分業によるライディングをも可能とするものであり、ロングツーリングの疲労を軽減したり、タンデムライダーに優しい操作をする場合においても有効であろう。
装備
気になるところ
その他、やや少ないと感じられる800ミリ/820ミリというシート高の可変幅や、厚みのある2重構造で、外観ほどは入らないパニアケース、装着が前提とは言え、パニアを外した時の車体側デザインが配慮されていない点など、気になる部分があるにはあるが、ミラー以外は、欠点らしい欠点がないと感じた。ただし、メーターパネルの横に十分な余裕があり、カウル右側にはRTのようなコンパートメントが備わっているにも関わらず、スピーカーの内臓とオーディオのオプション設定がないのは、欠点とは言えないが、他の豪華装備と比較して不自然さを感じた。
「GT」の重み
しかし、近年ではモデル数は増え、エンジンのバリエーションも拡大。また、他のメーカーと同様の極太アルミツインスパーフレームにハイパワーな並列4気筒を搭載したモデルも登場した。まるで、今のBMWは他のメーカーと同じ土俵での勝負を望んでいるかのように見える。既に発表されているミドルクラス、F800S/STにも戦略的なプライスタグがつけられるに違いない。
しかし、それだけでは不十分だ。勝負を有利に進めるには、戦況を一挙に変えてしまうような強力なカードを切る必要がある。
モデル名が完全に重複するにも関わらず、敢えて与えられた「GT」という符号には、そんな強い思いが込められているように思えるのだ。高額なこのモデルが直接マーケットを支配するほどの影響力をもっているとは思えないし、BMWもそれを想定してはいないだろう。しかし、攻めに転じたのBMWの強力なイメージリーダーとしての素質は十分だ。スーパースポーツに勝るとも劣らない動力性能と刺激、ツアラーの快適さと利便性、豪華さ。この全てをこれほどまでに完璧な形で兼ね備えるモーターサイクルはこれまで存在しなかったからだ。また、この意味においては
BMWは、「GTの符号は軽々しく使うものではない」とでも言いたげだ。確かに、4輪の世界における「GT」は、メーカーの威信をかけて開発した高性能スポーツモデルに与えられるのが一般的だ。これまでツーリングモデルに軸足を置いてきたBMWのラインナップには、それに相当するモデルは多くはない。裏を返せば、相当の覚悟を持って開発したと思われるK1200Sには、「GT」のベースマシンとしての資質ありと、BMW自身が認定した数少ないスポーツモデルだということになる。
「名ばかりのGT達は道をあける」
かつて、四輪の世界ではそんなキャッチコピーが存在した。4輪も製造するBMWは、「GT」という符号の重みを意識しているに違いない。
BMW K1200GTプレミアムツーリングパッケージ 価格249万円(税別)
*電子制御サスペンション(ESA)、クルーズ・コントロール、シート・ヒーター、キセノン・ヘッドライト等を含む
スペックシート
●記事制作:ホビダス編集部 渡辺
●取材協力:BMW BIKES編集部
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