電気で走るオートバイ

10月23日~28日、パシフィコ横浜で「EVS22(第22回国際電気自動車シンポジウム・展示会)」が開催され、電気を動力源とする2輪車も出品されました。今回のオートバイ特集では、近未来のオートバイの姿を予感させるこれらの電動2輪車についてお伝えします。

EVS22 主な出品車両

●「FC-AQEL(エフシーアクエル)」
未来的なデザインのFC-AQELのボディーには、ヤマハ発動機の燃料電池技術が凝縮されている。
 1993年、世界に先駆けて発表した電動ハイブリッド自転車「PAS」や、電気だけで走るエレクトリック・コミューター「EC-02」や「Passol-L」の開発など、ヤマハ発動機はクリーンな2輪車の研究開発にもっとも積極的なメーカーのひとつと言えるでしょう。

 ヤマハ発動機では、水素を燃料とする「ヤマハ水素燃料電池システム」と、液体メタノールを燃料とする「ヤマハダイレクトメタノール燃料電池システム」という2系統の燃料電池技術を研究開発していますが、「FC-AQEL」は、「ヤマハ水素燃料電池システム」を搭載した125ccクラスの燃料電池二輪車です。燃料は圧縮水素。金属セパレーターを採用した燃料電池で小型・軽量化を実現するとともに、駆動部にはEC-02などのエレクトリック・コミューターで培った超薄型パワーユニット(YIPU)技術を応用し、リアアームと一体で設計された後輪ハブ部に、超扁平ブラシレスDCモーターや超小型コントローラー、遊星減速機などをコンパクトに搭載しています。

 また、35MPaの高圧水素タンクを2本搭載し、十分な後続距離を目指すとともに、二次電池とのハイブリッドシステムとすることで、高い効率と出力を実現しています。 発表では「十分な航続距離を目指している」とされているFC-AQELですが、実際の航続距離を質問したところ「開発中なので詳細は教えられない」としながらも、説明からは既に実用上十分な航続距離を実現しているという雰囲気が伝わってきました。

①未来的なリア・ビュー。125ccクラスだがタンデムシートは存在しない。②通常であればタンデムシートおよびトランクに充てられるスペースには2本の高圧水素タンクが格納される③足元にあるのは燃料電池を制御するコントロール・ボックス。④メーター部分は表示パネルと3つの操作ボタンのみというシンプルな構成。

⑤125ccクラスの動力性能にふさわしいテレスコピック式フロントフォークと、ディスクブレーキ。キャリパーは2ポッド方押しタイプ⑥リアのスイングアーム部分には超薄型のモーターなどがコンパクトに格納されている。⑧通常のスクーターとは異なり、駆動部の裏側にもスイングアームが存在する。⑨フロントマスクも独創的なデザインとなっている。

●「FC-me(エフシーミー)」
「ヤマハダイレクトメタノール燃料電池システム」は小型機器に応用すれば出力特性を落とさず軽量化できる。  
 ヤマハ発動機はFC-AQELに先立ち、「ヤマハダイレクトメタノール燃料電池システム」を搭載した燃料電池2輪車を実用化しています。それがこのFC-meです。

 こちらは50ccクラスの燃料電池2輪車で、燃料はメタノール水溶液。液体なので扱いやすく、燃料補給が簡単なのがメリットです。また、改質器や圧力容器、セルスタックの冷却系等も不要な「ヤマハダイレクトメタノール燃料電池システム」により、車体重量69キログラムという軽量ボディと、100キロメートルもの航続距離(30km/h定地走行値)を実現しています。

 既にこのFC-meは、2005年9月から静岡県との間で賃貸借契約が締結され、公用車として利用されていますが、現在もさらなる技術開発が進められています。

①実用車然としたデザインのFC-me。②熱的な問題を解決するために大型の冷却ファンを備える。③EC-02などと同様に駆動系がコンパクトにまとまったスイングアーム④FC-AQELとは異なりスクーター的な片持式のリア周り。

●「XJR1300e」
東京電力ブースに突如として現れた「XJR1300e」。シリンダー部分を大パワーのモーターに改装して”オール電化”。
 東京電力のブースに展示されていた「オール電化XJR」。「XJR1300e」と命名されていますが、実際には開発されているわけではなく実験的な意味合いが大きいバイクのようです。

  ジビ製と思われる左右のリア・ハードケースに収められているのは動力源となるバッテリー。ヤマハ発動機のエレクトリック・コミューター「EC-02」用のリチウムイオン・バッテリーを6本使用しています。

 充電はAC100ボルトで可能ですが、フル充電には6時間を必要とするバッテリーを6本も搭載していることから、現状では実用的とは言えません。しかし、必要な電力さえ確保できれば、重いXJR1300の車体もリチウムイオン・バッテリーで走らせることが出来るということを証明した貴重な一台と言えるでしょう。

 また、数値は明らかにされていませんが、現在搭載されているモーターは、出力的にはかなりのオーバースペックであるとのこと。そのためか、ウルトラ・フラットで感動的な乗り味を実現しているらしいのですが、果たして電気で走るXJRはどのような乗り心地なのでしょうか。

①むき出しのギアとチェーンが独特の迫力のXJR1300e②搭載された大型モーターは「感動的」な乗り味を生むと言う。③左右のバッグはEC-02用のリチウムイオン・バッテリーを6本によって占領されている。④エンジンのシリンダー部分を大型モーターに置き換え、ミッションなどはほぼそのままの状態であることがわかる。

●「Li de E-jan/リチウムで いーじゃん」
中国製電動スクーターをベースに、電池だけを高性能なリチウムイオン電池に改装。そのため完成度は高い。
 こちらは、マイクロ・ビークル・ラボが出品していた電動スクーター。ベースは中国製の市販電動スクーターで、搭載する電池を同社が販売しているリチウムイオン電池に置き換えたものです。

 現段階ではコンセプト・バイクですが、航続距離は40km(30km/h定地)、最高速度は時速40kmを達成。近隣での買い物など、普段のアシとしては十分な性能を実現していると言えます。

 動力として、ノート型リチウムイオン電池7セル・モジュールを2機搭載。各セルをステンレスケースに収めたうえで、安全弁と保護回路を内臓したこの電池は、長寿命と高い信頼性・安全性を実現しており、電気自動車やソーラーカーの実験開発などに実績があるものです。家庭で気軽に充電できるのが何よりの魅力と言えるでしょう。

①シート下にはバッテリーが格納されているが、まだ荷物を入れる余裕がある。②高性能なリチウムイオン・バッテリーにより、30km/h定地走行で約40kmの後続距離を実現している。③搭載されているノート型リチウムイオン・バッテリーの7セル・モジュール。これを2パック搭載している。④ハブ部のモーターやスイングアームなどはややチープな印象だが、コミューターとしての性能は満たしている。

電動二輪車の課題

 開発が進められている電動2輪車ですが、高圧水素などを燃料として発電する燃料電池を搭載するタイプと、大容量の二次電池、つまりリチウムイオン電池などを搭載するタイプに大別できます。

 燃料電池を搭載するタイプに関しては、寒冷地への対応など性能面での課題のほか、燃料の主流になると考えられる高圧水素を安全に格納するタンクの研究開発など、主に安全面での課題が残されているようです。一方、二次電池を搭載するタイプに関しては、リチウムイオン電池以外の電池の開発や、容量の拡大による航続距離のアップ、急速充電方法の確立などの課題が残されています。

本田技研工業の燃料電池4輪車では、高強度の高圧水素タンクを、強固なサブフレームでガードしている。(写真:左上)。EV(電気自動車)にとっては、リチウムイオン電池以外の電池の開発も急務だ。写真は昭和飛行機工業が取り扱いをしている金属/食塩電池。大容量で長寿命、軽量コンパクトでメンテナンス・フリー、環境にもやさしいなど、数々の特徴を持つ(写真:上)。昭和飛行機工業では、金属/食塩電池を搭載した「eVan(軽貨物EV)」を販売している。8時間の充電で150km(10・15モード走行)の走行が可能。充電は200V単相交流電源使用なので、家庭でも充電することが可能だ。車両価格は350万円と高価だが、維持費は約0.9円/1km。(写真:左)。

インフラ

 さて、燃料電池への燃料供給や、二次電池の充電など、いわゆるインフラはどうなるのでしょうか?会場には、既に水素ディスペンサーや急速充電器なども展示され、このような周辺技術の開発も車両と平行して急ピッチで進められている様子が伺えました。

 現在、高圧水素のデリバリーに関しては、70MPaと35MPaの2種類が想定されているようで、ディスペンサーも2種類の供給に対応したものが開発されているようです。また、リチウムイオン電池などの二次電池に関しては、東京電力が大型の急速充電器を出品。傍らのスバルR1eで60km程度の走行が可能となる約80%の急速充電を15分で完了することが出来ます。

 ガソリンスタンドに水素ディスペンサーや大型充電器が設置される時代はもうすぐそこかもしれません。

高圧水素ディスペンサーは、70MPaと35MPaの2種類の圧力を想定している。高圧に耐え、ユーザーの充填ミスを防ぐためにそれぞれ形状違いの専用ノズル(コネクタ)が搭載される(写真:左上)。 東京電力の急速充電器は大型冷蔵庫ほどの大きさ。充電の速度もさることながら、充電する車両との通信の確立など、開発には数々のハードルがあったようだ(写真:右上)。東京電力ではクリーンなEV(電気自動車)とオール電化住宅の特性を生かしたLDK+G(ガレージ)、つまりリビングなどの生活空間とガレージに間仕切りが存在しないスタイルを提案している(写真:左)。


電動二輪車の可能性

モーターや変速機をコンパクトにパッケージングする技術は2輪車の新たな可能性を生み出すかもしれない。
 燃料電池タイプにせよ、二次電池タイプにせよ、駆動は電気モーターで行われることになりますが、現在のところは車輪のハブに薄型モーターを組み込んだホイール・モーターが主流のようです。

 このことから、電動二輪車では、エンジンが搭載されるべき場所は、燃料電池やリチウムイオン電池、それらのコントローラーなどに占領され、駆動はコンパクトなホイール・モーターが担うという構造に変化していくことが予想されますが、現在のオートバイの車体構成やフィーリングが変わってしまうことに関して、抵抗感を感じる二輪ユーザーも多いことでしょう。しかし、ホイール・モーターのウルトラ・フラットな出力特性やコンパクトネスは、例えば2輪駆動オートバイの実用化など、新たな可能性を秘めている技術でもあります。現状のガソリンエンジンを楽しみつつ、今後の開発に期待することにしましょう。

●記事制作:ホビダス編集部 渡辺
●取材協力:
ヤマハ発動機 東京電力 マイクロ・ビークル・ラボ 本田技研工業 昭和飛行機工業
NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)