ハンド・ツールの素材について その1
ハンド・ツールに関する考え方は人それぞれ。ホームセンターに並ぶ激安工具を使う方もいれば、輸入品の高級工具を使う方もいらっしゃることでしょう。また、工具をセットで購入する場合もあれば、必要性が生じるたびに、気に入った工具をひとつひとつ増やしていくというケースもあるでしょう。いずれにしても工具を購入する場合、ちょっと気になるのが工具の材料のことです。今回の特集はハンド・ツールの素材、「鉄」のお話です。
鉄は鉄でも・・・
ハンド・ツールの材料は、「鉄」であって、実は「鉄」ではありません。「鋼」(はがね)がハンド・ツールの材料なのです。これはどういうことかというと、実は純鉄(Fe)は、いくら熱処理をしても硬くはならないのです。そういう意味では「鉄」は、ハンド・ツールの材料としては不向きです。ところが、鉄に微量の炭素(C)を加えることで、鉄は「鋼」(Fe+C)となり、ハンド・ツールの材料として非常に優れた性質を持つようになるのです。
炭素は柔らかいのに・・・
ご存知の通り、炭素というものは、本来とても軟らかい物質なのですが、鉄の中に入ることにより、「セメンタイト」という化合物に変化し、15倍も硬くなるのです。この段階でも十分硬いのですが、この状態の「鋼」に熱処理を加えることで、さらに2倍から3倍も硬さが増すのです。こうして、ハンド・ツールの材料として十分な硬さに到達するというわけです。
熱処理の重要性
ハンド・ツールの材料である「鋼」にとって、熱処理は、その硬さを決定する非常に重要な工程なのです。また、鉄が含有する炭素の量そのものも重要なファクターで、その調整がメーカーの腕の見せ所でもあります。一定のレベルまでは、含有する炭素の量が多いほど、鋼は熱処理により硬くなりますが、硬さは脆さでもあり、鋼が使用される目的にあわせたサジ加減が必要になるのです。
実は炭素の他にも・・・
「鋼」を熱処理する上で、他にも重要な元素があるのをご存知でしょうか?例えば「クローム・バナジウム鋼使用」などと工具のパッケージなどにも記載されていることが多いので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、モリブデン(Mo)、クローム(Cr)、バナジューム(V)なども使用されます。これらの量や熱処理の方法もメーカー独自のノウ・ハウが生かされる部分であり、非公開であることも多いようです。尚、JIS規格(日本工業規格)では、モンキーレンチの材料を、「S45C」または「S55C」と規定しています。「S」はスチール(鉄)、「C」は炭素(カーボン)を意味し、炭素の量が「45」というのは0.45%であることを示しています。また、ソケット類は「SCM435」と規定しています。この場合、「S」はスチール(鉄)、「C」はクローム(Cr)、「M」はモリブデン(Mo)を意味しているのです。しかし、実際には、輸入品・国産品問わず、JIS規格と同等か、それ以上の規格の材料を使っている場合が多いようです。
●記事制作:ホビダス編集部 渡辺



