15年前まで住んでいた東京にひさびさに出てきてる
某地方都市で暮らす友達と待ち合わせをし、
赤坂見附のスターバックスの窓際の席で
俺は“本日のコーヒー”であるところのグァテマラを、
甘党であるヤツはチョコレートのたっぷり入った
カフェモカとシナモンロールをクチにして、
懐かしい話に浸ってた昨日の夕方ちょっと前のこと。
羽織と袴に身を包んだ若い男がひとり、
俺達の目の前を通りかかった。
いかにも着慣れていない和装のようで、
彼は意識的にひざをしっかりと持ち上げながら
カックンカックンと妙に頭を上下させて歩いていく。
そうでもしないと裾を踏んづけてしまうからだろう。
だが、あごヒゲをはやした若者のその表情は、
どこか前向きな自信に満ちあふれているように見えた。
俺「……歩き方、志村けんさんのバカ殿みたいだ」
友人「サンガニチでもないのに和服かぁ」
俺「珍しいよな、まだ若いのに」
友人「最近の東京では流行ってるのか?」
俺「それほど流行ってるってわけでもないと思うぞ」
友人「それじゃ、何かの罰ゲームだ」
俺「うはははは。何のだよ?」
友人「判らん。でも間違いない。わはははは」
俺「おまえ、相変わらずクチ悪いなぁ。ふはははは」
友人「わははは。本気出したときのおまえにゃ勝てない」
そのときにはそんな他愛ない会話で終わったのだが、
ヤツが宿泊を予約していた赤坂プリンスホテルに
チェックインのために一緒に移動して、俺達は唖然とした。
バカ殿と罰ゲームがロビーに何人もタムロしていて、
それを遙かに上回る数のぎこちないお姫さま姿が
あちこちにキモノの花を咲かせているのだ。
かたわらの立て札には、こう書かれていた。
『○×△成人の集い』
そうだ。成人の日なのだった。
彼らのすでに倍以上の時間を生きた計算になる
頭のボケたふたりのチューネン男は、
いったいなぜ祝日なのかということを忘れていた。
俺「……」
友人「……」
俺「……いくらなんでも罰ゲームはねーだろ」
友人「……最初にバカ殿ってほざいたのは、おまえだ」
晴れやかな未来を前にほんのりとした希望に包まれて
楽しそうに笑ってる彼らと彼女達を前にして、
俺達は無言になって深く深く反省をした。
彼らがこれから創り上げていく
まだカタチになっていないひとつひとつの人生を、
誰も笑うことなどしてはならないのだから。
……ごめん。ごめんごめんごめんごめん。
ほんっとにごめん。悪かった。
その後、俺達ふたりは小さなバーでしみじみと飲んだ。
21年前の成人式の頃の自分達に想いを馳せつつ、
苦笑いしながらしみじみと飲んだ。
想い出せば想い出すほど、恥ずかしい。
人様に自慢できる美しい想い出よりも
できることなら想い出したくないことだとか
これ以上誰にも知られたくないことの方が多すぎて、
今こうしておめおめと普通に生きてることが
ときどき申し訳ないように感じられることすらあるほどだ。
だから、今年めでたく成人式を迎えた皆さんには、
「恐れることなど何もないんだよ」といいたい。
「おまえは突然何をいい出すんだ?」と思うだろうけど、
でもね、今、心からそう伝えたい。
だってさぁ、考えてごらん?
挫折ひとつすることなくエリート街道をひた走り
今は誰もが羨む大成功っていう立場にいる偉い人が、
高い場所から「君達の人生は前途洋々」なんて
祝福してくれたとしても、どこか空々しくないか?
俺は中学生のときに何かの拍子に知らず知らず
ポロリンってオチコボレて以来、
41歳になった今でも、ずっとコボレ続けたままだ。
何か大きな成功を収めたという事実もなければ、
ヒトカドのジンブツになれたわけでもない。
特筆すべき才能もないし、すごいコネがあるわけでもない。
賞罰でいうならば、オトナになってからも
罰のほうが圧倒的に多い……っていうか罰しかない。
まぁいってみれば、オチコボレのプロである。
だけど、こうして生きている。
毎日大きなクチを開けて笑いながら生きている。
財布の中にたんまりと金が唸ってるわけでもないし
時間が有り余ってる身分でもないけれど、
こうして笑いながら毎日を楽しく暮らしてる。
だからこそ「君達だってだいじょーぶだよ」と、
自信を持っていえるのだ。
だって俺ですらだいじょーぶなんだもん、
君達がダメなはずなんてないじゃん?
楽しく生きるのにコツなんかいらない。
笑いながら暮らすのなんて難しいことじゃない。
自分なりに生きる。自分らしくいる。
それが一番大切なんじゃないか? ほかに何が必要?
バカ殿だとか罰ゲームだとかの言葉に喜んで、
41歳にもなっていまだに恥ずかしいままの男の言葉に
説得力もクソもあったもんじゃないとも思うが、
でもまぁ……そういうもんだと思う。
君達の倍以上の時間を、時にもがきながら転びながら、
それでも笑いながら生きてくることができた人間として。
だいじょーぶだいじょーぶ。だいじょーぶだよ。
君の未来は、君の胸の中にある。
自分を信じて歩いていけば、それでいいんだと思う。
色々あるだろうけど、それでいいんだと思う。
がんばれ、青少年!
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