| そのオッサンは、確かに感じの悪いオヤジだった。
夕食時を僅かに過ぎたファミリーレストランのテーブルに
ひとりで陣取っているのは珍しくないにせよ、
ウエイトレスさんが皿を置いたときにカタンと音がすれば
「客をだいじに思ってない証拠だ」と文句をいい、
近頃ではスタンダードといえる“ドリンクバー”を指して
「客に給仕させるとは失礼だと思わないのか」と罵る。
酔っぱらってるのかなぁ……と思って
こっそり観察していたのだが、そうでもなさそうだ。
ただのヒネた不機嫌そうなオヤジだとしか考えられない。
誰でも「偶然こんなヤツと同じ空間に居合わせちゃって
困ったなぁ……」と思った経験ってのがあるだろうが、
つまりはそういう“困ったちゃん”のひとりである。
オッサンのひとつおいた席で、
チューガクセーまたはコーコーセーと思われる
4人組のグループが夕食を食べていた。
見てくれはどっちかといえばヤンチャ系だが、
別に大声で騒ぐわけでも喫煙しているわけでもない。
時計の針だって21時をちょいと回ったくらいの時間、
そう目くじらを立てるほどのことだとも思えない。
だが、オッサンはいきなりそっちを向いて、
こんなふうに言い放った。
「おい。ヒトがメシ喰ってるときに、
ピーチクパーチクうるさいんだよ」
おいおい。うるさいのはオッサンのほうだぞ。
それもさることながら、平成も18年になった世の中に
「ピーチクパーチク」っていう表現はどうよ……?
──と思ったのだが、少年達は大人よりもオトナだった。
即座にひとこと「すみません」と謝って、
また元通り仲間内で楽しそうにおしゃべりを再開したのだ。
もちろん、大声を出すことなんて一度もなく。
その冷静な態度が気にくわなかったのか、
オッサンはなおもブツブツひとりごとを繰り返し、
ときどき少年達に文句をいい放ってた。
「だいたいキミ達はなぜ子供だけでここにいるんだ?」
少年達は聞こえないふり。
「キミ達の親はいったいどういう教育をしてるんだ?」
またもやスカッと無視。
何度かそれが繰り返された後、少年達のひとりが
スッと立って、トイレに向かっていった。
およそ30秒後、オッサンが後を追うようにスッと立って、
どことなく憎々しげな表情を浮かべながら、
やはりトイレの方に向かっていく。
俺と一緒にメシを喰ってた友達はいいヤツとはいえないが、
ときどき正義漢に変身する熱血漢。
ヤツは「やべーんじゃねーの?」といいながら、
即座に席を立って後を追っていく。
ファミリーレストランのフロアにそこはかとなく漂う、
うすらボンヤリとした緊張感。
そして待つこと1分と少々──。
まずは少年が、何事もなかったように戻ってくる。
続いて俺の友達が、ちょっとニヤニヤしながら戻ってくる。
「何事もなかった?」
「ああ。何も。オッサン、個室だし」
オッサンはフロアに戻ってくると、ドリンクバーに向かい、
「自分でつがなきゃならないなんて……」とブツブツ。
席についたらついたで、何やらブツブツ。
何がおもしろくないのか俺達にはサッパリ解らないのだが、
とにかく目につく総てがおもしろくない模様。
少年達はそのオッサンを尻目に、帰り支度をはじめた。
「きっちりワリカンな」なんていいながら、
財布を取り出してジャラジャラと小銭を積み上げてる。
俺と友達はどことなく懐かしさに浸ってボ〜ッと見てたが、
オッサンは違ったようだ。再び悪態をついたのだ。
「親の金で何がワリカンだ。それとも盗んだ金か?
冗談じゃないよ。まったく。ほんとに」
それを聞いて、ついに少年達のひとりがキレたようだ。
つかつかとオッサンの席に歩み寄ると、
全フロアに響くような声でこう怒鳴ったのだ。
「おい、オッサンよぉ、いい加減にしろよコノヤロー。
弱いモノいじめがイヤだからおとなしくしてたのに、
つけあがるんじゃねーよ。いいてーこといいやがって。
バイトした金でメシ喰ってんのに何の文句があんだよ?」
「いや、私はそういうつも……」
「そーゆーつもりもこーゆーつもりも関係ねーよ。
だいたい、さっきまでウンコしてたヤツに
文句いわれるスジアイなんかねーんだよ」
「わわわ私はしてない! 私は……」
「個室に入ってただろ、てめぇ。このウンコおやじ」
「こっ個室に入ったのはたっ確かだが、それは……」
「ウンコに決まってんだろ、ウンコおやじ」
「わっ……私は……」
「ウンコおやじ、てめぇ、一生ウンコだけしてろ」
そう言い放つと、彼らはニヤニヤ笑いながら背中を向けて、
「わっ……私は……」と繰り返すオッサンを残して
スタスタとレジに向かっていった。
小僧ども、そりゃあんまりだろ。あまりにもあんまりだ。
あんまりだとは思うが、俺は断固としてキミ達を支持する。
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