2006年6月26日

スカリエッティさんに教えてもらったこと


記念撮影・神村 聖

『エンツォ・フェラーリのパープルを追って』の
原稿を書こうと前の号をパラパラとめくっていて、
俺は“思い出し笑い”ならぬ“思い出し感動”をしてしまった。

あのイタリアの旅は、現地に滞在したといえるのは4日間。
その間に20人近くの人にお話をうかがったわけで、
そうなると当然、朝の8時くらいにホテルを出て
22時過ぎくらいに部屋に戻るまでずっと
移動とインタヴューの繰り返し、というハードな毎日。
それこそ泊まったホテルの周りに何があっただとか、
モデナやマラネロの街並みがどんなだったとか、
それすらも記憶に残らないほどの強行軍だった。
とても「イタリアを見てきた」だなんていえない。

けれど、俺にとっては信じられないほどの体験の連続で、
毎晩デベドボと崩れるようにしてベッドに沈み込みながら、
その日に触れることのできた感動を噛み締めていた。

そのうちのひとつが“神”と会えたことだ。

コーディネーターの野口祐子さんが
何度も連絡を入れてくださったのだけど結局つながらず、
一度は諦めることにしたのだけど、
エンツォ・フェラーリの左腕だったとでもいうべき
カルロ・ベンツィさんのお宅におじゃましたとき、
「ならば近くだから一緒にいってみるかい?」と
アルファ156ワゴンに乗せて連れて行ってくださった。
運良く“神”は在宅をしていた、というわけだ。

セルジオ・スカリエッティさん──。

クルマ好きの人達にはあえて説明する必要もない、
イタリアの宝とすらいえる車体芸術の神である。

250GTO、500モンディアル、TRC、275GTB──。
名前を挙げはじめたら、キリはない。
50年代から60年代にかけての
数多くのフェラーリの溜息の出るような曲線美を、
1枚のアルミ・パネルを叩くことで現実にした芸術家だ。
エンツォは様々なカロッツェリアとつきあいがあったが、
とりわけスカリエッティさんの匠と人柄を愛した。

時にはデザイナーが描いた基本デザインを無視してでも
「君が素敵だと思うクルマを造りなさい」
「本当に造りたいクルマを造りなさい」と叱咤するほど、
エンツォ・フェラーリはスカリエッティさんを認め、
彼の感性と技を大切にしていたようだ。

「もう年だから細かいことは覚えてないんだよ」
といいながらも、スカリエッティさんは、
気さくに、そして穏やかに俺達を受け入れてくださった。

突然の押し掛け、しかも滞在できる時間もごく短くて、
たくさんのことをスカリエッティさんから
うかがうことができたとはいえない。
けれど、俺はものすごく感動していた。
あのセルジオ・スカリエッティさんに会えたということも
お話がとっても興味深い内容だったこともあるけれど、
何にいちばん感動したのかといえば……。

うーむ……。それをどう表現すべきか……。
いったいどんな言葉に変換したらいいんだろか……?
最も近い日本語で表記するとしたら
『らぶらぶ』……?

「自分の記憶に間違いがなければ、僕はたしか、
 1933年に13歳で働き始めた……はず。あっはっは」

ということは、今、スカリエッティさんは80代も半ば。
だが、数年前にロレダーナさんと再婚し、
彼より40歳以上も若い俺が唖然としちゃうほど、
どこからどう見てもアツアツなのだ。
お互いがお互いを自分の大切なエネルギーにして、
互いを慈しむような眼差しで見つめ合ったり笑い合ったり。
奥さんなんて「セルジオはもうリタイアしてるけど、
今もときどき絵を描いたりすると驚くほどの才能なのよ」
と、当たり前のようにノロケてくれるほど。
スカリエッティさんはそういう奥さんを常に眼で追って、
愛しくて愛しくて仕方ない様子。

ということは、それがどういうことかといえば、
人間、70代でも80代でも『らぶらぶ』でいられる、
ということをこのおふたりが証明してくれたわけだ。
心の深いところで愛し合える人と出逢えたなら、
仮に70代で結婚してもいい感じに『らぶらぶ』でいられる、
ということもバッチリと証明してくれてるわけだ。

どこまでもニコやかで1分1秒を楽しんでるような表情の
スカリエッティさん夫妻を見ていたら、
こういう生き方をしたいもんだ……なんて思えてきた。
もう一度くらいなら結婚してもいいかな……
なぁーんて思うようになってきた。
結婚はひとりではするのはムズカシイという問題は残るが、
まぁスカリエッティさんの年齢まで、まだ軽く30年はある。
ふむ。だいじょーぶだいじょーぶ。何とかなるだろう。
──そんなふうに感じて励まされたものだ。

あれから半年ほどが経過した。
うん。まだ軽く29年半近くはある。
だいじょーぶだいじょーぶ。……たぶん。

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コメント (9)

Tipoの嶋田でーす!:

インクさま。
まさかと思ってしばらくぶりに旧い『随筆』を見に来たら、
インクさんからコメントいただいていたことに、たった今、気がつきました。
レスが遅くなってゴメンナサイ。
ショッピング・フォーミュラ1のルカさんにもお分けしたいのですが、
実はそういう算段を整えるどころじゃなくなってしまいました。
まさかこんなに反響をいただくことになるとは思っておらず、
フタを開けてみたら一気に注文が押し寄せて来ちゃって、その瞬間に全品キープ。
実は発案者であり実際につくりにいってきた俺本人も、
ひとつも分けてもらうことのできない状態なのです(^◇^;)
これからロッソやスクーデリアで告知をして、それで売れ残ったら初めてスタッフ分。
ルカさんには申し訳ないけど、国内だけで全部なくなっちゃいそうな勢いです。
いろいろとアイデアをありがとうございます(^^)
これからも何かこの辺りのことを継続して……と思っております。

インク:

いつも楽しく読ませてもらっています。 少し気になった事がありコメントしますね。 イタリアのフェラーリグッズの店主さんが例のインクがあれば欲しいと言っていましたが、お渡しになったのでしょうか? それと取材の礼として、エンツォ氏が笑っている絵を「土曜の友人の会」に送るのはどうでしょうか?  スカリエッティ氏にしてみれば、なかなか無い物なので喜ぶと思いますよ。 市販されているエンツォの絵は全部厳しい顔ですが、「友人の会」の時には笑って出迎えるエンツォ氏がいたと思いますので、検討の価値はあると思います。
別冊でフェラーリの伝説みたいな物を作ってくれると嬉しいと
思うインクでした。

AOP.サトウさま。
今やイタリアやイギリスなどでも、
手でアルミを叩いてボディを造形することのできる職人さんは、
かなり少なくなっているのだとか。
コストの名の下にさまざまなものが犠牲になることもあって、
それは日本だけに限ったことではありませんが、
人の手の温もりのようなモノを感じられるクルマって確かに少なくなりましたね。

AOP.サトウ:

日本では、クルマのデザインと言うものは、「コスト」
の名の下にある程度犠牲になってしまっているのですが、
イタリアと言う国は、芸術のメッカと言うだけあって
とても造形を大切にしていますね!
当方の父が昔、プリンス・スポーツなるクルマの製作
現場を目撃したそうで、ハンマー1つでクルマの形を
作り出していくなんて凄い!と申しておりました!
当方もメーカーのサプライヤーとしてシャシー関係の
試作・開発の仕事に携わっておろますが、
コスト低減、の名の下、人の手が入る仕事は年々
少なくなってきてます。・・・手先の器用さが日本
の宝だったハズなのに・・・・・!

マリコさま。
淑女たる者、こんな場所でおおっぴらに異性に愛を告白するようなことをしてはなりませぬ(^◇^;)
じいやはお嬢様をそんなふうにお育てした覚えはありませんぞ。
……っていう声がどこからから聞こえてきそうですねぇ(^^)
めぐまれないオッサンにオトナのジョークをありがとうございます。うはははは(^o^)

マリコ:

お写真素敵ですね♪
私は嶋田さんとラブラブになれる自信ありますよ(^o^)
よし!!嶋田さんと来月結婚式だ!!
嶋田さん、愛しています♪

とも様。
届きましたよぉ、例のモノ。ありがとうございます(^^)
いやー、製品版もやっぱり綺麗な色ですねぇ。
製品版は余るまで俺の手元には来ないので、
試作品しか使ったことがなくハッキリと判らなかったのです。
でも、おかげさまでホッと安心しております(^^)
俺自身は手帳に書き込む専用インクとしてプロトを使っております。
だって、それがなくなっちゃったら終わりだし、長持ちさせたいので(^^)
ところでイタリア“こぼれ話”なんですけど、実はそんなにたくさんないんですよ。
時間も体力も限界まで使っちゃってたので、街の写真すら撮ってこられませんでした。
でも、まぁ僅かばかりのネタはときどきココで……。お楽しみに(^^)

DEAD BOYSさま。
あ。おまえは『とーはた』だな『とーはた』。
俺の古い悪友であんまりいいことをしてきてない『とーはた』だな(・_・)
……って、おい、なんか他のパターンは考えられないのか?
いやー、『カルロス』の話はイタリア人にも受けてた。
シチリアの試乗会でアルファ・ロメオのスタッフの人達にゲラゲラ笑われたもん。
「確かに日本人には見えない」とか納得してやがって。
あげくに翌朝も「おはよう、カルロス。わはははは」だって。
どこの国にでもいるんだなぁ、俺みたいな性格してるヤツ(・_・)
……けっ。そういう部分では負けるもんか。

DEAD BOYS:

見れば見るほど、今回の写真はカルロスで興味深いですね。
あ、違った、貫禄でてきましたね。
ごめん、ブログを読む観点が違うね。

とも:

伺えば伺うほど、今回のイタリアのお話は興味深いですね。

Tipoには書かれていない「こぼれ話」を
これからも少しずつこちらで拝見できると
楽しいのですが、いかがでしょう?

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