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2006年07月

2006年07月27日

まさかっちゃんからのメイル


愛犬のハナちゃんを亡くしてからこっち、
なかなかしょんぼりを隠せなかった“厄介系”オヤヂ、
まさかっちゃんこと佐藤正勝カメラマンから、
ついさっきこんなメイルが届いたので御報告を。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

くるきち様、マリコ様、とも様、DEAD BOYS様、
AOP.サトウ様、あき様、そして嶋田殿。
この度は私共の愛犬、故ハナ逝去に際し、
メッセージの数々を頂き誠にありがとうございました。
平身低頭、心より御礼申し上げます。
またお礼が遅くなってしまった事を
心よりお詫び申し上げます。

またまた私事で申し訳ありませんが
“厄介なおっさん”の独り言です。

思い起こせば、彼女との出会いはひょんな事でした。
たまたま立ち寄ったペットショップで
ショウケースの中で愛想を振りまく彼女を見た私は、
「マンションじゃ飼えないけど見るだけ」と思いながら、
店員さんから優しく手渡された彼女を左手に乗せ、
自分の顔の前に近づけてみると、
彼女は突然私の鼻の頭を舐めたのでした。
30分後、彼女は私の左手に抱かれながら、
我が家の一員になったのでした。

あれから10年9ヶ月。
ドイツ出張から帰った翌日の7月7日、私の前には
冷たくなってしまったハナが横たわっておりました。
この所のペットブームのお陰と言えばお陰なのですが、
ペットの葬儀社には冷蔵・冷凍庫が完備されており、
7月3日に死んでしまったハナは一晩を自宅で過ごした後、
その葬儀社で私の帰国を待っていてくれました。
火葬を終え、小さな骨壺におさまったハナを
再び左手に抱え帰路に就き、
ふと思うと7日は私の実母(故人)の誕生日でもあり
「これからはおふくろが面倒見てくれるんだ」
などと思いにふけりました。

ハナが天に召されてから間もなく1ヶ月、
ハナが命がけで教えてくれた事があります。
我が息子の『ゴジラ』に命の大切さと尊さを、
そして我々には家族の大切さを
もう一度見直す機会を与えてくれました。

もう、くたくたになって家に帰っても
玄関で待っていてくれるハナはいないけど、
ハナの想いを胸に
これからも皆さんの心に残る写真を撮っていく所存です。
これからも応援宜しくお願い致します。
そのためにも、嶋田! 早いとこ仕事よこせってーの!!

ありがとうございました。

7月27日
佐藤正勝、家族一同

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

……なるほど。そう来たか。
このモノ言いのあくまでも強引な論理のスリ替えと
多分に恫喝を帯びたビックリ・マークつきの響き。
まるで、のび太を前にしたジャイアンである。
この前までカニのようなガタイをしてしょげてたくせに、
という性格ワルの俺が顔を出したりもするが、
まぁこれでこそ普段のまさかっちゃんである。
ここはひとつ、俺がオトナになって、
彼がやっとこさ元通りに戻ったことを喜びながら
エビスの黒でも空けることにしようか。
……朝にでも家に帰れたらね。

今はただただ、きっと天国で元気に飛んで跳ねている
彼の恋人に、こうお願いすることにしておこう。

ハナちゃん、これから先もどうかどうか、
生まれてこのかたずっと道を踏み外しっぱなしの
あの極めて厄介なおっさんを、
見放すことなく優しく見守ってあげてくださいね。

投稿者 T.Shimada : 00:36 | コメント (12)

2006年07月22日

哀愁のカレーヌードル


岡山国際サーキットで開催した
ティーポ・オーバーヒート・ミーティングは熱かった。
ビックリするくらいに暑かったし、熱かった。

当日、参加してくださった皆さんや
遊びに来てくださった皆さんに、
心の底から御礼を申し上げたい気持ちで一杯だ。

俺達スタッフはイベントの翌日、
ものすごく大きな充足感を抱えながら
月曜日の午後に東京に戻ってきた。

とっても楽しかったし、とっても充実してた。
体力を使い果たすまで動き回ってよかったなぁ……と、
みんなニコニコ顔で飛行機から降り立ったのだった。

そう、体力を使い果たしちゃったのである。
火曜日と水曜日なんて、編集部のほとんど誰もが
ヒトとして機能らしい機能をしていなかった。
副編のウエっちなんぞは火曜日、水曜日ともダウンして、
木曜日になって見事に病院送りである。

俺はといえば、どういうわけか全身筋肉痛に襲われて、
身体全身が重くてダルくてどうしようもない。
さらに今週は仕事の上での飲みの席がふたつもあって、
見事に追い打ちをかけられたような具合である。

こういう状態だと自宅で食事をつくる気力もなく、
仕事場で食事の時間になっても外食に出るのも面倒で、
ついつい普段は避けてるカップ麺に手を伸ばしたくなる。
だって、オーバーヒート・ミーティングのときの
スタッフの夜食用に買い込んだモノが余ってたりするし。

俺は箱の中にボコボコと入ってた無数のカップ麺の中から、
迷わず『カップヌードル カレー味』を選び出した。
理由は美味いから……ではない。
もちろん味だって悪くはないのだが、
一番の理由は……そう! “にほい”である。

日本人であれば誰もが一度は経験したことがあると思うが、
なんとな〜く腹へった……と身体が感じているときや
猛烈な空腹を覚えてそれでも我慢しているときに
この『カップヌードル カレー味』の“にほい”が漂うと、
もうその瞬間から狂おしいような気分になる。
空腹感が倍、あるいは3倍に膨れあがるのだ。
腹立たしくなるほど空腹感を高める“にほい”なのである。

ちょうど夕方。そろそろ皆の腹が減ってきてる時間帯だ。
……しめしめ。

俺は規定のラインまでしっかりと湯を入れて
1分間だけ待ってからフタをペロッと剥がすと、
残りの2分を使ってティーポの編集部がある
3階のフロアをカップを握りしめてひたひたと歩いた。
割り箸でゆっくりかきまわしながら、
“にほい”がなるべく広く、遠くまで漂っていくように。

あっちこっちで「うわっ!」だとか「何だとぉ?」だとか
「ちっくしょー!」だとかの声が上がったのを確認し、
俺は成果に満足しながら席に戻ろうとした。

そのルート上にジェイズ・ティーポの島があり、
そこにチャボという最も妙なスタッフがいたので
顔の横でパタパタと仰いでみたら、
彼はジーッとカップの中を覗き込んで、普通にひと言。
「お湯がちょっと少ないですね」

ぐ……。

悔しいので、そのすぐ横にいたティーポの若年寄、
ヘルメット坂上の後ろ姿にカップを近づけてみた。

「うわっ。くさい! くさいくさいくさいくさい!
 何やってるんすかぁ、いい歳してぇ。くさいなぁもー」

ぐ……。

最後の最後に2連敗を喫し、俺はスゴスゴと席に戻ると、
悔しさを噛み締めながら
ずるずるとだらしなくカレー味をクチにした。

イタヅラも冴えない。
効果的な再攻撃の手段も思いつかない。
こりゃもしかして、自分で考えてるよりも
もっともっと体調が悪いのかも知れない。

俺はとっとと家に戻って、
さっさとベッドに転がることに決めた。

ああ、冴えない……。
何もかもが、冴えない……。

投稿者 T.Shimada : 23:51 | コメント (8)

2006年07月13日

俺がクレーマーになった日(後編)


「ちょっと待ってください。今、地図を見ますから」

どうやら電話のあっち側では地図すら見てなかったようだ。
ガサゴソ……ゴニョゴニョ……。今度は5分が過ぎた。

「やっぱりその道しかないんですけど……」
「そんなことないでしょ。道は普通つながってるんだから。
 それとも店の前にはクルマ走ってないの?」
「普通に走ってますけど。……ちょっと待ってください」

そんな具合に「ちょっと待て」が計11回、
待たされた時間は合計にして26分。
その間クルマの中で会話もなくケータイを耳にあてたまま。
途中で別の店員さんに電話の相手が換わったが、
状況は全く変わらない。挙げ句の果てに──。

「ここにいる誰もクルマで来たことがないんで……。
 ほんと、駅からすぐなんですけどねぇ……」

俺はその瞬間にキレた。
こりゃイカン……と思うか思わないかのうちにキレた。
もしかしたらイカンとは思わなかったかも知れない。

「おい。いったいなに考えてるんだコノヤロー。
 揃いも揃って客を呼んでナンボの商売なのに
 自分のいる店までの道すらまともに説明できねーのか?
 待て待てって、いつまで待ちゃーいいんだ?
 ずっと待たせてりゃしっかり教えられるってのか?
 10分も20分も待たせて何も進展しねー頭で、
 いつまでたっても判るはずなんかねーだろーが。
 待たせてる間に誰か判りそうなヤツに連絡して訊くとか、
 考えなしに待たせてばっかりいねーで
 こっちの電話番号訊いて折り返しかけ直すとか、
 そういうこと思いつかねぇーのか? おまえはコドモか?
 っていうか、その前にスミマセンとかゴメンナサイとか、
 そういう言葉は出てこねーのか? コドモ以下だろうが。
 だいたい待たせるだけ待たせて“実は近い”って?
 近いんだったらとっとと迎えにきて店まで案内するとか、
 あ、そーだ、おまえ今からこっちに来い。
 5000円札で支払うから商品とツリを持って、
 今すぐここに来い。早く来い。すぐに来い。走って来い。
 10分だぁ? ふざけんな。そんなに待てるか。
 近いんだろ? 3分で来い。ほら、早くそこを出ろ」

通行人が迂回して通るくらいだから怒鳴っていたのだろう。
俺はこうなると言葉が汚い。……もうムチャクチャである。

──そして待つこと5分。黄色い袋を持った男が、
こわばった顔をして、恐る恐る近づいてきた。
ハタチ前くらいの、ごく普通の、線の細い若者である。

「すいませんでした……すいません……」

俺は極悪非道な物言いをしたことを、少し後悔していた。
自分のダメさにまた直面して、落胆していた。
電話だと表情まで見えないわけで、彼達は彼達なりに
戸惑ったり困ったりして、慌ててたのかも知れないし……。
ショックだったろうな、この子。顔色青いもん……。

「もういいですよ。こうして来てくれたわけだし。
 でもあんなふうだったら俺じゃなくても怒りますよ普通。
 いや、まぁ……ちょっと言い過ぎたけど……」

彼は黄色い袋に入れたDVDらしきものを差し出してくる。
俺はサイフから5000円札を出して、手渡そうとした。

「あっいや。代金の方は結構です。迷惑料ってことで……」
俺がおとなしくなったからか、ケロッとして軽くいう。

今度はちゃんと「イカン!」と思ったのだが、
俺はついつい……もうひとキレしてしまった。

「あのなぁ、おまえら、いい加減にしろよ。
 それじゃまるで俺がキョーカツしてるみてーじゃねーか。
 迷惑料だと? 俺がいつタダにしろっていった?
 ツリを持ってこいっていっただろ?
 それとも俺はクレーマーか? おい、答えてみろよ」

……ここまで来たらクレーマー以下である。

「乗れ。店まで案内しろ。ちゃんと着くまで案内して、
 着いたら速攻でツリを持ってこい。……早く乗れって」

俺はクルマを走らせてるうちに落ち着きを取り戻し、
君達の何がどうダメかを静かに具体的に説明しつつ、
結局回り道を強いられながらも意外や呆気なく店に到着し、
ツリを持ってきてもらって、とっととその場を後にした。

……ウンウン頷いてたけど判ってくれたんだろうか本当に。

客の正しいあしらい方も言葉遣いも知らない馬鹿者──。
だが、こっちも客としての正しい振るまいと
人としての礼節を知らない馬鹿者だった。
どっちもどっち──。ただただ反省。自己嫌悪。

交差点で助手席に放った黄色い袋を何気なく手にとった。
何やら文字が透けて見える。DVDのタイトルだろう。
……ん? ぬぉーーーっ! こっ……これはっ……!!

『となりのトトロ』。

い……や、作品自体は素晴らしいと思う。名作だと思う。
だが、あの現代の若者にこんなふうに思われてるとしたら、
それはオトナとしてヒジョーにバツが悪い。

「あのおっさん、偉そうにカッコつけて怒鳴ってたくせに、
 アニメだぜアニメ。しかも『トトロ』。ぷぷぷっ」

いろんな意味で、なかったことにしたい1日──。

投稿者 T.Shimada : 19:44 | コメント (10)

俺がクレーマーになった日(前編)


数日前のこと、俺はその日に訪ねる予定だった
親しい友達に頼まれて、
本だとかCDだとかDVDのリサイクルショップとして
全国的に有名な『○ック△フ』の、
とある店舗へとクルマを走らせていた。

子供にねだられた映画のDVDを手に入れるために
あちこちに在庫確認の電話をしたら不発続きで、
手を尽くしたらようやくそこにあったから、
おまえのところから近いんだし通り道みたいなもんだし、
そういうわけだから悪いが買ってきてくれ、というわけだ。

まぁ、おやすい御用である。

聞けば確かにヤツの家へ向かう道のりの、
途中といえば途中のエリアだ。だからといって、
「おまえの名前で1時間くらいで取りにいくと伝えてある」
と勝手にアポイントを組むなよ、とは思うけれど。
その程度のイタヅラめいたことなら、
俺がヤツの立場でもするだろうから驚かないにせよ。

だが、俺にはヤツの家へ向かう前に別の用事があって、
そっちは比較的タイトな時間の制約があった。
電話を受けたのが書店の棚を冷やかしてたときだったので、
予定より30分ほど早く向かうことにしたのだった。

順番からいえば先に頼まれごとを済ませる方が効率がいい。
ただそのエリアにはほとんど土地勘がなかったので、
俺は出発を前にヤツから教わった番号に電話をかけて
店までの行き方を尋ねることにした。

「お忙しいところ申し訳ないのですが、
 ◇×○通りからの行き方を教えていただけますか?」

電話の相手はつっかえつっかえだったものの、
判りやすい目印を教えてくれた。
どうやら今いる場所からなら3回曲がれば到着するらしい。

……ありゃ?

最初の曲がり角は問題なかったものの、
次に教えられた目印のある曲がり角を左折できない。
目印はちゃんと存在していて簡単に判明したのだが、
一方通行の出口だから侵入することができないのだ。

まいったなぁ……と思いながらクルマを進めた。
かろうじて2台がすれ違えるくらいの細い道なのに、
交通量が多いうえに路線バスだって通っているのだ。
渋滞の原因になんかなりたくない。

アタリをつけた方角を目指しながら走ると、
ようやくクルマを停めても問題なさそうな場所へ出た。
目的地の店名にもなっている、私鉄の駅である。
俺はそこで停車して、再び電話で道を訊くことにした。

「すみません。先ほど電話した嶋田と申します。
 教えていただいたとおりの目印はあったのですが、
 そこが進入禁止で入れませんでした。
 今、偶然 △○◇駅のロータリーに着いたので、
 ここ、近いですよね? 教えていただけますか?」

先ほどと同じ店員さんが再び応対してくれて、
今度はスラスラと道案内をしてくれた。
なるほど。駅からならスラスラと答えられるのか──。

けれど電話を切って教えられたとおりに向かおうとしたら、
いきなりそこが、またまた進入禁止である。
俺は半ば呆れながら、再びケータイを手にした。

「あのぉ……ですねぇ。また進入禁止なんですが……」
「えっ? ……ちょっとお待ちいただけますか?」

俺の返事も待たず、詫びの言葉があるわけでもなく、
電話の向こうでガサゴソ……ゴニョゴニョ……。
待つこと3分。返ってきた答えは、さっきと全く同じ。

「ですから、あなたのいうその道は進入禁止なんですよ」
「ちょっと待ってください」

ふたたびガサゴソゴニョゴニョで、今度は待つこと5分。

「えっとですねぇ、それじゃ○△銀行と
 □◇△○っていう喫茶店の間の道を……」
「だぁかぁらぁ、そこは進入禁止なんですよ。
 ここから入れる道は、駅の反対側に渡っちゃう道と
 線路に沿って逆側に向かう道だけなんですよ。
 △○◇駅前のロータリー、判ります?」
「判りますよ」
「判るならちゃんと道案内してくださいよ」

段々イライラしてきた。

──あ。ごめん。ちょっとタイムアップ。
こんなことしたくないんだけど、続きはまた後でね。



投稿者 T.Shimada : 10:58 | コメント (0)

2006年07月03日

ハナちゃん、おやすみ──


朝の7時25分のことだった。

ケータイが振動したので手にとってみると、
“+49”というドイツの国番号からはじまる国際電話。
こんな時間で、しかもドイツからとなれば、
俺には思い当たる人物はひとりしかいない。

「顔が恐い」「身体がいかつい」「クチが悪い」という
厄介なおっさん3要素を取りこぼしなく見事に取り揃え、
そのくせ撮る写真はハッとするほど美しいことで
自動車雑誌業界でも知られている、
佐藤正勝カメラマン、通称まさかっちゃんである。
ティーポでは『チンク盆栽日記』の主人公としても
お馴染みの、おかしなおっさんだ。

俺よりほんのちょっとだけ年上のまさかっちゃんは、
その風体からは想像もつかないほどの寂しがり屋さんだ。
特に深夜にひとりで飲んでいて急に寂しくなると、
フランクフルトからだろうがパリからだろうが
日本の居酒屋からだろうが、いきなり電話してきたりする。
そういえば今は、シュツットガルトに行ってるはずだ。
時差7時間だから、あっちは24時半──。

「あーもしもし? だからこっちは早朝だっつーの」
「あのさ……ハナちゃん死んじゃった……」
「……え?」
「ハナちゃんがね……死んじゃった……」
「……。……」
「……。……」

ハナちゃんは、まさかっちゃんが
目の中に入れてもちっとも痛くないほど
可愛がっている愛犬。レディである。
しばらく会ってはいなかったが、10年とちょっと前、
まさかっちゃんがコワモテをデレデレに崩しながら
「ウチの子。ハナちゃんでーす」と連れてきて以来、
何度か撮影現場で遊んでもらったことがあった。
ちょっとおちゃめでとってもキュートなレディだった。
まさかっちゃんが彼女にベタ惚れに惚れていたことは、
彼を知る人なら誰もが知っていたことだ。

……ハナちゃん、亡くなっちゃったのか。

享年11歳。立派なおばあちゃんである。
だからといって「大往生だね」なんて言葉が
何の慰めにもならないことなんて、
愛犬を亡くした経験があれば誰にだって判ることだ。

人間よりも生きるスピードの速い犬達は、
後から生まれてくるくせにいつの間にか俺達を追い越して、
先に天に昇っていく。
残された人間達は、悲しみを噛み締めて生きるしかない。

んなことは、まさかっちゃんだって判ってる。
嫌ってほどに判ってる。

「明日の仕事が終わったら、日本に飛んで帰りたいよ……。
 でも、親の死に目にだって会えねぇ仕事だからなぁ……」

彼はシュツットガルトで水曜日まで仕事が入っていて、
木曜日になるまで帰って来ることができない。
電波となって飛んでくるのは、やるせなさばかりだ。

「なんかさぁ……目の中に入れるモノがなくなると、
 涙ってのは出てくるんだな……」

静かに抑えたような声を耳にしながら、
そのとおりだ……と思った。
思ったけど、クチにすることはできなかった。
死を悼む人を前に、言葉は呆れるほどに無力だからだ。

「孝行したいときに親はなしっていうけどさ、
 親だけじゃないんだよな、それってさ……」

“巨匠”ならぬ“巨笑”の異名をとるまさかっちゃんの
いつものお笑い系とは正反対の声に、
俺は結局ちゃんとした受け答えをすることができなかった。
きっと電話を切ったあの後、まさかっちゃんは、
シュツットガルトのホテルの部屋で、
涙を流しながら冷蔵庫が空になるまで飲んだのだろう。
コワモテのくせに情に厚いあの男のことだから、
もしかしたら声をあげながら泣いたのかも知れない。

……ごめん。今日はそれだけ。オチもなにもなし。
ただ、世の中から見たら小さなことかも知れないけれど、
この『随筆』の中でほんわかとした
笑いを提供してくれたこともあるハナちゃんが、
苦しかった病から解き放たれて天に召されたことを、
クスッと笑わせてもらった人達に伝えたかっただけだ。

ハナちゃん、ありがとね。
あの厄介なオヤジを今日までずっと癒してくれて、
ほんとにどうもありがとね。
あなたがいてくれたおかげで、あの頑固オヤジが、
一体どれだけ救われて、どれほど笑顔になれたことか──。

どうかどうか、ゆっくり休んでください。

投稿者 T.Shimada : 19:30 | コメント (7)



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